マジギレか戦術か!? 金正恩vs朴槿恵の「舌戦」が過熱

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韓国の朴槿恵大統領は21日、大統領府(青瓦台)の首席秘書官会議で、「最近、金正恩が核弾頭と弾道ミサイルの発射実験を指示したように、絶え間なく無謀な挑発を試みている」と語り、北朝鮮の金正恩第1書記を呼び捨てにして非難した。韓国の政府高官が正恩氏の肩書を省いて呼ぶのは異例だが、朴氏は2月にも一度、呼び捨てにしている。

北朝鮮メディアはこれまで、低俗な表現で朴氏を繰り返し罵倒。最近では金正恩氏自身の発言として「朴槿恵の狂気」などの言葉を報じている。

それに比べれば、呼び捨ての1回や2回ぐらいとも思えるが、仮にも国家元首の発言である。キレた上での失言なのか、あるいは意図的なものなのか、裏を疑いたくなる。そこで参考にしたいのが、「呼び捨て」をいち早く報じたのが聯合ニュースであるという事実だ。聯合は韓国において、法的に「国家基幹ニュース通信社」に位置付けられ、政府から予算の配分も受けている。

それを踏まえ、筆者は朴氏の「呼び捨て」は意図的なものであると見る。

一方、北朝鮮のメディアが独裁者の強い指導下にあるのは言うまでもなかろう。加えて正恩氏の時代になってからは、そのあり方にも変化が見られるようになった。本来は秘密のはずの兵器写真を新聞などで見せびらかしたり、挙句の果てには自分自身の“ヘンな写真”まで気前よく公開したりしているのだ。

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正恩氏の“ヘンな写真”を新聞に載せる判断など、本人以外に下しようがない。勝手にそんなことをして逆鱗に触れたらどうなるか。あっという間に処刑されてしまうだろうことは、刑場の露と消えた側近らの末路が示している。

本題に戻ろう。南北の「舌戦」は大なり小なり感情的な要素を含んではいようが、国家の指導部が戦術として行っている可能性が高い。

その目的は、ひとつは国内に対する「強気」のアピールであり、もうひとつは相手に対するメッセージの伝達だろう。そしてそのメッセージとは、「アナタの任期中には対話などする気はない」といったものであるはずだ。

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韓国政府は久しく前から、北朝鮮の国家的な人権侵害を追及してきた。この問題にもっとも神経質になっている正恩氏が、朴槿恵政権と本気で対話する可能性はそもそも低かった。

朴氏の任期は、残り約2年。今後、朝鮮半島情勢はいっそう緊迫の度合いを深めていくかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記