北朝鮮「女子アナ」人選にこだわり抜く金正恩氏

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北朝鮮の金正恩第1書記はスイス留学中にメディアの影響力を強く認識したのかもしれない。国営メディア、特にテレビの影響力を重視し、自らのイメージ作りに最大限、活用している。

例えば、金正恩氏が朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の演習や、ミサイル発射を現地指導する様子は、逐一写真と映像で記録され、国営メディアを通じて大々的に宣伝される。児童施設を訪ねて子どもを抱きかかえたり、軍人と腕を組むシーンなどは、「指導者の人民愛」「親しみある指導者」というイメージを植え付ける狙いがある。昨年5月には、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星1号」の発射実験を船から眺め、その成功ぶりに大はしゃぎする姿まで公開した。

かと思えば、翌6月のスッポン養殖工場の現地指導では、管理状態が気に入らず激怒。支配人らに対し怒り狂う様子を隠すことなく放送させた。たとえ年配の幹部であろうとしかり飛ばし、無慈悲に処刑してしまえる存在であることをアピールしているかのようだ。

自分自身のイメージ作りだけでなく、朝鮮中央テレビの番組も以前に比べ全体的に垢抜けた。とりわけ、女子アナに関しては徐々に若手が起用されていることをデイリーNKジャパンは確認している。

ちなみに米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、女子アナ選びは、金正恩氏が直接口を出すほど、熱を入れているという。そう言われてみれば、李雪主(リ・ソルチュ)夫人、モランボン楽団の歌手、若手女子アナと、金正恩時代に登場した女性達に共通して言えることある。ヘアスタイルがショートですっきりとした顔立ちであることだ。こうした女性が、金正恩氏のタイプということか。

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いずれにせよ、もともと朝鮮中央テレビのアナウンサー、とくに女子アナは人気職業であり、狭き門を突破しなければ就けない職業だった。加えて、金正恩氏が直接選んでいることもあり、より人気が高まりつつあるようだ。

こうした金正恩氏のメディア戦略をサポートするのは、実妹の金与正(キム・ヨジョン)氏と見られている。彼女はプロパガンダを担当する朝鮮労働党宣伝扇動部に所属すると言われているおり、今後も積極的にメディア戦略に関わっていくだろう。

ただし、金正恩・与正氏の兄妹がいくらメディア戦略に力を入れても、北朝鮮のテレビは、どこまでもプロパガンダ・コンテンツが中心で、北朝鮮の庶民からはそっぽを向かれている。番組がつまらないせいで今や、多くの北朝鮮住民は、朝鮮中央テレビには目もくれず、DVDで韓国、中国、そして敵国である「米国」の映画を見ている。

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金正恩氏が、メディア戦略の過程で女子アナ選びにまで口を出したとしても、それが最高指導者の人気につながったり、格を上げるわけではない。そんなことよりも、北朝鮮国内の人権侵害状況を改善する意思を見せる、または実行に移した方が、北朝鮮の若きリーダーとして、より国際的に評価されるというものだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記