遂に「南北統一」を放棄した金正恩氏と朴槿恵氏

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北朝鮮の対韓国窓口機関、祖国平和統一委員会は10日、核実験や長距離弾道ミサイル発射への韓国の独自制裁に対抗し、南北間の経済協力や交流事業に関する全ての合意を無効にすると発表した。

そして同時に、閉鎖された開城工業団地など北朝鮮内にある韓国企業・機関の全資産を「清算」すると表明。韓国の朴槿恵政権に「致命的な政治、軍事、経済的な打撃を加え、悲惨な終末を早めるための特別措置を連続してとる」と脅迫している。

韓国側資産の「清算」がどのような形で行われるかは不明だが、それが実行されれば、朴槿恵政権が南北統一に抱いてきた野心は音を立てて崩壊することになる。

今から1年余り前、2015年1月のことだ。日本の経団連に当たる韓国の「全国経済人連合会(全経連)」はスイス・世界経済フォーラム(ダボス会議)に際し、会場のホテルで「コリアン・ナイト」を開催。500人余りのグローバル・リーダーに北朝鮮の伝統料理を振る舞い、開城工団で作られた製品を記念品として配った。この前年の会議では、朴槿恵氏も南北統一の可能性をアピールしている。

そこに込められていたのは、低成長時代を迎えた韓国経済は、北朝鮮マーケットの開拓をもって復活して見せるとのメッセージに他ならない。

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北朝鮮の「清算」宣言は、そんな韓国側の思惑を知り抜いた上でのカウンターパンチなのだ。

もっとも、北の現体制との統一を先にあきらめたのは、朴槿恵政権であったとも言える。韓国では2日に成立した北朝鮮人権法に基づき、統一省に北朝鮮人権記録保存所を開設。北朝鮮の人権蹂躙の実態に関する記録を集め、内外に発信すると決まった。

そこでどのような情報が蓄積・発信されるかを考えれば、韓国国民が金正恩体制をよりいっそう強く拒絶するであろうことは想像に難くない。

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つまり金正恩体制と朴槿恵政権は、互いに南北統一の可能性を放棄したも同然の状態なのだ。

しかしそもそも、たとえ経済成長のためであっても、韓国側がこれほどの人道犯罪に目をつぶり、金正恩体制との統一にまい進できたかは疑わしい。急がば回れ、という言葉もある。ここで金正恩体制の本質に目を向けておくことはかえって、北朝鮮の「次なる体制」との南北統一の可能性を、わずかにせよ高めるかも知れない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記