「中国軍が攻めてくる」…北朝鮮で奇妙なデマが拡散

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北朝鮮当局は2月22日に「戦闘動員態勢」を下し、全国の成人に「軍服着用命令」が下された。さらに、国連安保理で対北経済制裁案が可決され、米韓合同軍事演習も始まったことから、緊張状態に包まれている。

殺伐とした空気が広がるなか、「奇妙なデマ」が拡散していると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

そのデマとは、「中国軍が白頭山のそばに兵力を集結させている。中国軍が攻めてくるかもしれない。『戦闘動員態勢』も、米韓軍ではなく中国に備えたものだ」というもの。もちろん、ただのデマだが、3月に入って中国が北朝鮮産石炭の輸入を停止したり、中国長白県の税関が閉鎖されたことから、「中朝関係が緊迫している」という空気が蔓延していることが背景にある。

かつてなかった事態が起こっていることから、「何かあるのではないか」という噂が飛び交い、なぜか「中国軍が攻めてくる」というデマになってしまったようだ。厄介なことに、こうしたデマが別の地域にも広がり、「国境地帯で中国軍の兵士が増えた。もうすぐ攻めてくるんじゃないか」という誇張されて伝わっている。

確かに、中国軍は、金正恩政権に入ってから国境地帯で大規模な軍事訓練を何度か行った。また、公式メディアは、北朝鮮当局の大本営発表のみで、まともな情報を伝えないため、庶民達は少しの異変にも敏感に反応する。とくに、中朝国境の鴨緑江の対岸では、中国側が軍事訓練を行う度に、住民たちは不安に思っていた。

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北朝鮮当局は「戦闘動員態勢」は、米韓の攻撃に備えるためと強調しているが、多くの庶民はまともに受け止めてない。むしろ、昨今の悪化した中朝関係の影響のせいで、「攻めてくるとすれば、米韓ではなく中国軍だろう」と感じているのだ。

とはいえ、北朝鮮庶民達の多くはこっそりと海外ラジオを聞きながら、ある程度、国際社会の動きも把握している。その一方で、情報にアクセスできない人々も多く、彼らが中国側の些細な変化に敏感に反応し、デマ拡散へとつながったと見られる。

今回のデマとは違って、少し前には、朝鮮半島有事が発生した場合、金正恩第一書記がひとりで「飛んで逃げる」とする冗談じみたデマが拡散した。正恩氏の飛行機好きに引っ掛けたものではあるが、その一方で、彼が整備させてきた秘密施設も絡めた内容であるだけに、秘密警察が収拾に乗り出す事態にまで発展している。

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北朝鮮当局は、こうしたデマが起きる度にあの手、この手を使って打ち消そうするが、そんなことをしなくても、しばらくたつと自然と消えるものだ。ただし、デマの過程で庶民の間で自然とわき出る当局への不満と、その頂点に立つ最高指導者、すなわち金正恩氏に対する不満を抑えることは難しい。だからこそ、デマの拡散に躍起になるのかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記