昨日、本欄で北朝鮮の外貨稼ぎの主力商品である石炭について、中国が3月1日から輸入をストップしたと書いたが、現地の様子が伝わってきた。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は「現在、中朝国境の新義州(シニジュ)の税関前では、石炭や精鋼を満載したトラックが立ち往生を余儀なくされている。中国の税関から輸入許可が出ないからだ」と明かした。また、ある外貨稼ぎ会社の幹部は、中国の貿易業者に「海上での石炭密輸」を持ちかけたが、けんもほろろに断られてしまったそうで、徐々に困惑が広がっているようだ。
このように国連の対北朝鮮制裁が強化されるなか、北朝鮮の庶民が「制裁不況」に戦々恐々としている。とりわけ、今回は上記のとおり中国が制裁に協調する姿勢を見せていることから、制裁強化が中朝貿易の停滞を招き、さらに自由市場を中心とする「草の根資本主義」経済を悪化させるかもしれない。そうなれば、庶民の生活が大打撃を受けるのは必至だ。
庶民達は石炭の輸出に限らず、制裁が経済の停滞を招きつつある現実に敏感に反応している。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、それなりの規模の市場にも、商品がほとんど入ってこなくなった。相対的に経済状況が相対的に良くなったとはいえ、日々のささやかな稼ぎで糊口をしのいでいる北朝鮮庶民たちの暮らしを直撃しつつあるのだ。一部からは、「90年代の大飢饉のような経済難がまた始まるんじゃないか?」という噂が広まっている。
こうした不安心理と食糧不足の兆しを受け、経済的に余裕のある人は食糧の買いだめに走り始め、ただでさえ十分とは言えない供給がさらに細り、値段が上がるという悪循環が起きている。
食糧価格高騰の原因についても、「軍は国から配給された食糧を市場に横流ししていたが、途絶えてしまった」という説と「労働党第7回大会の準備で、備蓄されていた食糧が底をついた」という二つの説が飛び交っているが、噂が噂を呼び、景気がさらに悪化。まさに、社会不安が悪循環を招いている。
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高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。