北朝鮮は「総攻撃」とは言っていない…誤報多発の裏側

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北朝鮮の国防委員会は7日、過去最大規模の米韓合同軍事演習が同日から行われることに対し、猛烈に反発する声明を発表した。 時事通信はそれについて、「米韓が最大規模の合同演習=北朝鮮『総攻撃』と威嚇」と題した記事で報じている。記事本文でも、2カ所で北朝鮮が「総攻撃」という表現を使ったと報じている。

しかし、これは明らかな間違いだ。北朝鮮の声明原文を読むと、「総攻撃」という言葉は使われておらず、正しくは「総攻勢」である。ハングル版でも日本語版でも同じだ。

「総攻撃」と「総攻勢」では意味がまったく違うし、読み手の受ける印象の差も大きい。 前者だと、兵器を使用して敵を破壊・撃滅するという意味に取れる。しかし「攻勢」だと、必ずしもそういう意味にはならず、「外交攻勢」や「平和攻勢」などの意味も含まれる。

最近の北朝鮮報道には、こうしたミスが多くなっているように感じられる。

北朝鮮の金正恩第1書記は元旦、今年の施政方針に当たる「新年の辞」を肉声で発表したが、日韓の主要メディアの中には彼が「南北対話に意欲を示した」などと書いたものがあった。対話に意欲どころか、その直後に核とミサイルでそんなムードが完全に吹っ飛ばされたのは周知のとおりだ。私には、あの内容のどこが「対話に意欲」なのかさっぱり分からなかった。

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もっとも、それが単純なミスによるものなら仕方ない。より問題なのは、マスコミが言うべきことを言わず、それにより世論や政策を迷走させている部分があることだ。

北朝鮮の人権問題への言及が少ないこともまた、世論の目を曇らせている。しかも、北朝鮮自身が「暴走」の理由に人権問題を挙げているにもかかわらずだ。

(参考記事:北朝鮮「核の暴走」の裏に拷問・強姦・公開処刑

朝鮮半島情勢は今後ますます、危機の度合いを深めて行く可能性が高い。そんなときだからこそ、マスコミは慎重かつ深層をえぐる報道を心掛けるべきではないのか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記