北朝鮮に長距離弾道ミサイルを発射する兆候があることを受けて、日本政府は28日夜、自衛隊に対し、ミサイルを迎撃するための破壊措置命令を出した。北朝鮮は2、3週間以内にも人工衛星の打ち上げと称して発射を実施する可能性があり、日米韓などの防衛当局は耳目をこらして動向を注視している。
こうした局面で、日本の情報コミュニティーの主役となるのは防衛省情報本部だ。ジャーナリストの三城隆氏は様々なデータを挙げて、情報本部こそが「日本最強」の情報機関であると解説している。
日本の情報機関といえば、「公安」がよく知られている。小説やドラマの題材となることも多く、一般にも認知された存在だ。それに比べれば、情報本部は非常に目立たない組織だ。一般の人々に限らず、「ハム担」と呼ばれるメディアの公安担当記者であっても、情報本部とツテを持っている者はほとんどいない。なぜなら、情報本部はヒューミント(人的情報活動)を行わないためだ。
では、どうして情報本部が「日本最強」なのかと言えば、隷下に強力な電波傍受部隊を要し、北朝鮮の通信を逐一拾い上げているからだ。その能力は、単に通信内容を知るだけでなく、日本の領海に入りこんだ工作船の位置まで特定することが可能だという。
しかしそんな能力を持ちながら、自衛隊は拉致事件の多発を防げなかった。その背景には情報コミュニティー内部の錯綜した利害関係や、米軍への「配慮」があったからだと言われている。
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日米同盟を防衛政策の土台としている日本においては、いかなる情報活動も、米国との関係から自由ではない。北朝鮮のミサイル問題にしてもそうだ。米国は、偵察衛星が撮影する画像を微妙に調整する「シャッターコントロール」で日本に流れるデータを操作し、「情報優位」に立って、外交政策に影響を与えていると言われる。
そうした影響を最小限に抑え、独自の「目と耳」で集めた情報で政策を立てることもまた、国家の安全保障にとって欠かせない戦いなのだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。