制裁論議を横目に拡大する韓国の対北朝鮮貿易

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北朝鮮の核実験に対する制裁論議が続いているが、その一方で、今年の韓国の対北朝鮮貿易は拡大しそうだ。南北経済協力事業として行われている開城(ケソン)工業団地の生産額が増大しているためだ。

開城工団は北朝鮮の南部、韓国との軍事境界線付近に設置された経済特区で、北朝鮮が土地と労働力を提供。韓国の中小企業が進出し、繊維・機械・金属・電子部品など百数十社が操業している。

同公団は、2013年2月に北朝鮮が地下核実験を強行したことから両国関係が悪化し、同年4月から9月半ばまで操業停止に陥ったことがある。しかし、それは韓国側の制裁によるものではない。

反対に、北朝鮮が労働者全員を撤収させたことで操業できなくなってしまったのだ。

韓国政府は2010年3月に発生した哨戒艦「天安」撃沈事件を受け、同年5月から対北朝鮮制裁措置(5・24措置)を実施。南北交流のほとんどを中断させているが、その例外とされている開城工団の生産額が増えているため、南北交易も過去最高を更新している。

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今回の核実験後、韓国政府は開城工団に駐在する韓国側人員の最小化措置を取ったが、運営自体は維持する方針を示している。

その主な理由はふたつある。ひとつは、開城工団の運営を止めれば韓国の進出企業が倒産してしまい、政府として完全に救済するのが不可能であるためだ。

そしてもうひとつは、経済交流を通じて北朝鮮の人々に徐々に影響を与え、内部からの変化を促すためだ。開城工団において労働者の「おやつ」として配られているチョコパイが、北朝鮮の市場で大人気商品となり、庶民経済の「草の根資本主義化」を促す一要素になったことはよく知られている。

(参考記事:開城工業団地労働者、チョコパイ賭けた必死のバレーボール試合

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北朝鮮の核の暴走に断固たる態度を示すことも必要だが、関係国の利害が錯綜する中では、経済制裁によって真に効果を上げることは難しい。

人権問題のハードルはあれど、長期的な視点から言えば、硬軟両面でのアプローチを考えてみることも必要だろう。

いっそ、開城工団のように韓国だけで細々とやるのではなく、国際社会が一丸となって北朝鮮の変化を促す戦略を模索すべきではないのか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記