北朝鮮の水爆実験をめぐり、対北朝鮮包囲網が狭まりつつある。
今月20日からスイス開かれる世界経済フォーラム(ダボス会議)に北朝鮮の李スヨン外相が出席する予定だった。ダボス会議に出席すれば、1998年以来の18年ぶりということもあり、注目されていたが、核実験を理由に招待は取りやめられた。
国際社会からの投資を募りたい北朝鮮としては痛手であり、こうした動きは今後もさらに強まるだろう。
国連安全保障理事会も、制裁強化決議の作成に向けて動いている。北朝鮮を兵糧攻めにして、核実験を中止させる、もしくは核開発のスピードを遅らせるという戦略だが、その実効性について疑問視せざるをえない。そもそも、制裁を進めようとしている国連でさえも、北朝鮮の核・ミサイル関連の取引などについて、制裁が正しく履行されていないと認めているのだ。
本欄では繰り返し指摘しているが、2006年に国連の制裁が開始してからの10年間で、北朝鮮は今回も含めると3回の核実験を強行し、核開発、そしてミサイル開発を継続している。こうした経緯を踏まえると、これまで通りの制裁では決定打にはなりえないのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面制裁が決定的なダメージとなっていない典型的なケースだが、水爆実験と称する核実験の裏で、ビールにクロマグロと贅沢三昧を尽くす指導層もいるぐらいだ。
大韓貿易投資振興公社(KOTRA)の資料によると、金正恩第1書記が最高指導者になってからの3年間で、北朝鮮はドイツから本場のビールを輸入している。ちなみに、ドイツの地元新聞はコニャック派だった故金正日氏と違い、正恩氏はビール派だと伝えた。
さらに、故金正日氏が好んだ「日本産クロマグロ」が、北朝鮮指導層の間で流行っているというのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面日本の独自制裁によって、クロマグロは輸出禁止リストに入っていることから、北朝鮮に、直接輸出されているとは思えない。中国経由が最も可能性が高いが、もしかすると「産地偽装」かもしれない。いずれにせよ、幹部からすれば「将軍様が好んだクロマグロを食べられるぐらい自分も偉くなったもんだ」といったところか。
こうした北朝鮮内部の事情を無視した経済制裁に果たして意味はあるのだろうか。筆者は、なにも国連や日本独自の経済制裁を反対しているわけではない。北朝鮮の姿勢を転換させる効果があるなら積極的に進めるべきだ。ただし、実効性がない現実を見て見ぬふりをして、アリバイ的に北朝鮮に圧力をかけているふりをすべきではないと再度強調したい。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。