いずれにせよ、国内での人権侵害の罪を問われ、ほとんどヒトラーと同列扱いされかかっている正恩氏にとっては、ISが「絶対悪」と見なされ、自分がそれと敵対している構図が出来上がることは悪いことではあるまい。
もちろん、自国民の虐殺場面が衛星画面でも捉えられている以上、それで罪を見逃してもらえるわけではないが、言い訳の材料ぐらいにはなる。
ほとんど知られていないことだが、実は北朝鮮国民もISと思しき勢力による拉致されている。人質となったのは「愛国者」と言われた人々なのに、彼らを救出するため、正恩氏が必死に努力したという話は聞こえてこない。
こういう時にも「頼りになる親分」を演じられないとなれば、世襲体制の行く末も長くはないかもしれない。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。