なんとか米国の気を引きたい北朝鮮が、オバマ氏の自国に対する無関心さに、はらわたが煮えくりかえる思いと「反発」を抱いたことは容易に想像出来る。また、最も敵対しながらも最も対話したい米国が、手の届く場所まで来たにもかかわらず、手をこまねいて見送ることしか出来なかったことへの「苛立ち」も感じただろう。プライドの高い北朝鮮らしい返礼ともいえるが、代償を顧みない稚拙な言動は、時には大きな反発となって返ってくる。
案の定、今回の差別表現に対して、米ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)は、声明を通じて、「北朝鮮公式メディアは、誇張された言動で悪名高いが、今回の言及はとりわけ醜悪だ」と非難した。これによって北朝鮮が望む「米朝直接対話」は、さらに遠のくことは避けられない。それとも、北朝鮮は一向に進まない米国との交渉を短期的に諦めたのか。
仮に、政治的意図があったとしても、北朝鮮による一連の「国家ぐるみのヘイトスピーチ」は、普遍的な人権感覚という見地からも、決して容認されるものではない。
金正恩体制になってから、北朝鮮は過去の負のイメージからの脱却を狙っていると評されることもあるが、国際社会に認められるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。