北朝鮮の人権状況を巡り、エリザベス・サルモン国連北朝鮮人権特別報告者が3月6日に公表した第61回国連人権理事会向け報告書(未編集版を先行公開)が、国際社会で広く注目を集めている。報告書は「北朝鮮で公開処刑が再導入された」と指摘し、深刻な人権侵害の継続に強い懸念を示した。
北朝鮮は2020年、韓流取締法とも言われる「反動思想文化排撃法」を制定し、最高刑を死刑とした。海外のドラマや映画を視聴したり売ったりしただけで極刑を課すのは人権侵害と言わざるを得ない行為だ。一方、百歩譲って北朝鮮の視点から見るなら、韓流映像の売買は麻薬のような「危ないもの」の密売と同列にあるものなのだ。そして、そのような密売ビジネスは、往々にして「儲かる」のである。たとえば以前、平壌市内の兄弟山(ヒョンジェサン)区域に50代のチャン氏と40代の妻の夫婦が暮らしていた。「偽タバコ」の製造販売で財を成したチャン氏夫婦は平屋の自宅を2階建てに改造し、隣家に立ち退き金を払って買い取るなどして、家を増築した。敷地内に設けた工場で、3〜40人の従業員を雇い入れ、偽タバコの製造に当たらせていた。
彼らの豪勢な暮らしは近隣住民の嫉妬の対象となり、2021年のはじめ頃、夫婦の「怪しい商売」が保衛部(秘密警察)に通報された。
おりしも、反動的思想文化排撃法が成立した直後のことだった。当局がチャン氏夫婦の自宅の家宅捜索に踏み切ったところ、偽タバコだけでなく、大量の中国製SDカードが発見された。追及を受けた夫婦は、タバコの巻紙を密輸したときに2回ほど、韓流コンテンツなどが記録されたSDカードが入れられていたことがあったと説明。誰が入れたのかはわからないと主張した。
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その上で、好奇心で映像を見てみたところ「これまで見たことがないほど面白く、ハマってしまった」という。そして、危ないとは知りつつも、SDカードにコピーして地元の市場で売りに出したところ、非常に反応が良かったため、本格的に韓流ビジネスに手を出したと自供した。
そして、平壌郊外の寺洞区域の大園里射撃場で、平壌市全体の人民班長(町内会長)と地域住民が見守る中、男性3人と女性1人の公開銃殺が行われた。
夫婦が売っていたものが、偽タバコだけだったなら、極刑を下されることはなかっただろう。チャン氏夫婦も韓流コンテンツを扱うことのリスクは承知していたはずだ。しかし、「もっと儲けたい」という欲望を抑えることができず、より危険な商品に手を出してしまったのだ。
