北朝鮮の新聞、テレビは毎日のように若者の「嘆願」を伝えている。国営の朝鮮中央通信が今月23日に配信した記事によると、平安南道(ピョンアンナムド)の若者90人が、「朝鮮労働党が呼ぶ困難で骨の折れる部門」に行きたいと嘆願したと報じた。行き先は炭鉱、建設現場、高速道路補修管理隊、ヤギ牧場など様々だ。
また25日には、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の朝鮮社会主義女性同盟のメンバー数百人が、食品工場や化学日用品工場に行きたいと嘆願したとも報じた。
表向きは「嘆願した」ということになっているが、実際は脅迫と懐柔を繰り返して、行きたくなくとも行かざるを得ないように追い込むものだ。
(参考記事:「家族を死なせられない」権力に抗った北朝鮮女性の悲惨な運命)それでも、各組織は嘆願希望者の「募集」に苦戦しているのが実情だ。そんな中、平安南道社会主義愛国青年同盟は、妙案をひねり出し、若者を次々と「困難で骨の折れる部門」に送り込んでいる。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
平安南道青年同盟は今月初旬、各市・郡の青年同盟を通じて、炭鉱など「陸の孤島」のような僻地へ向かうように呼びかけよと指示した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面若者たちは、半強制的な「嘆願」の対象にひっかからないように、ありとあらゆる手段を動員して抵抗し、青年同盟は人員の募集に苦戦していた。
そんな中、价川(ケチョン)市の青年同盟は、こんなプランを出した。
「組織生活で問題を起こしたトラブルメーカーを調べ、彼らを困難なところに送り込もう」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面政治行事、思想学習会などの組織生活に真面目に取り組まない者、韓国風の表現を使った者、韓国の映画やドラマを見た者、麻薬を使った者など、法的または行政処分の対象となっている若者をリストアップ。罪を帳消しにする見返りに、困難で骨の折れる部門に行きたいと嘆願せよと迫ったのだ。
价川市青年同盟はこのような手法で、昨年80人を炭鉱に送り出すことに成功した。今年3月には、20人の名前を嘆願希望者の名簿に載せることができた。情報筋の知人は、韓国ドラマの話を友人にしたのを、初級団体の書記に聞かれ、炭鉱に行くはめになってしまったという。
(参考記事:「見てはいけない」ボロボロにされた女子大生に北朝鮮国民も衝撃)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面青年同盟はこの手法を一石二鳥だと自負しているようだ。上からの嘆願希望者のノルマを達成できると同時に、厄介払いもできるからだ。
「青年同盟の責任者たちは、このように弱点を掴んで半ば脅迫して(嘆願すると)同意を取り付けるやり方がずっとスムーズだと言っている。問題を起こした若者が多ければ多いほど、実績をあげられていい」(情報筋)
(参考記事:北朝鮮「陸の孤島」から死に物狂いで脱出…若い女性らの”最後の手段”)だが、これで一件落着というわけにはいかないだろう。
炭鉱や農村に送り込まれた若者は、ありとあらゆる手段を使って抜け出して、都会に戻ろうとする。その過程で、ワイロや性上納など都会の悪習が田舎に持ち込まれるのだ。
また、今の厄介払いの方式もどれほど持つかわからない。「上に政策あれば、下に対策あり」のお国柄だけあって、何らかのやり方で無力化されるのもそう遠くはないだろう。
都会とそれ以外の地域の間に存在する埋められない格差が解消しない限りは、送り込む、逃げられる、また送り込むの悪循環から抜け出すことは困難だろう。