北朝鮮の社会安全省(警察庁)は昨年12月、全国の安全部(警察署)に対して、横暴な振る舞いをやめるように指示を下した。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、指示の内容は次のようなものだ。
「すべての安全員は高邁な道徳的品性をもとにして社会秩序を確立し、人民の生命と財産を保護する役割を担うべきだ」
こうした指示の背景にあるのは、配給を減らされて食い詰めた安全員(警察官)や保衛員(秘密警察)らの悪質化だ。昔から庶民を苦しめてきた彼らが、いっそうたちの悪い行いに走っているのである。
たとえば、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋の話として報じたところによると、中国との国境に近い地域で2年ほど前、脱北して韓国に住む娘と中国キャリアの携帯電話で通話した容疑で、ある母親が保衛部に逮捕された。
母親は家から遠く離れたところまで行って、娘と通話していたところを保衛部に急襲された。ここまでならよくある話だ。だが、現場にはいなかった残りの家族3人(息子1人と娘2人)までが自宅で逮捕され、衆人環視の中、連行されたことが地域住民を驚愕させた。事実上、連座制が適用されたのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面話はここで終わらない。
保衛部は韓国に住む娘に対して、家族の身代金として巨額のワイロを要求したのだ。娘はカネをかき集め、1000万ウォン(約103万5000円)を保衛部に送ったが、彼らは約束を守らなかった。家族4人のうち、3人しか釈放しなかったのだ。
釈放されたのは本来の容疑者である母親と、事件とは関係ない妹2人。いずれもひどい拷問を受けていた。妹の1人は特にひどい拷問を受けたのか、長らく起き上がることすらできずにいた。
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一方で未だに釈放されていないのは、事件とは関係ない息子だ。つまり保衛部は最初からカネを奪い取る目的で一家4人を逮捕し、さらに追加でカネを奪い取ろうと、息子を人質に取ったのだ。
こうなっては、家族としては保衛部の言いなりになるしかない。北朝鮮には、権力者の横暴を訴える「信訴」という制度があるが、脱北者がからむ件であるだけに、それも使えない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面八方ふさがりになった人々の中には、報復のため保衛員や安全員を襲い、殺害するケースすらある。しかし、保衛員や安全員としても、こうでもしないと食べていけないのだ。
コロナ以前には、中朝国境地帯で密輸が活発に行われ、その利益を庶民と保衛員らが分け合う構図もあった。しかし、金正恩政権による国境統制の強化でそれも難しくなってしまった。八方ふさがりなのは、庶民も役人たちも同様なのである。