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北朝鮮の市や郡には消防隊が存在する。地域の安全部(警察署)の保安課の所属で、消防隊員の身分は安全員(警察官)だ。戦前の日本で、警察が消防の役割と担っていたのと同じだ。

一方、規模の大きい企業所は独自の消防隊を擁している。こちらは警備を担当する保衛隊の所属で、身分は一般労働者だ。

しかし、どちらの組織も北朝鮮国民からの信頼は勝ち得ていない。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋によると、当局は最近、火災が発生したら、消防隊に直接電話して通報するよう呼びかけている。番号は日本と同じ119番だ。

今までは工場、企業所、人民班(町内会)を通じて通報するのが原則だったが、直接消防隊に電話することで、火災に迅速に対応せよという意味があるのだろうと、情報筋は考えている。

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しかし、現実はそういかないようだ。

「原則として、消防隊は通報を受けて30秒以内に準備をして出動することになっているが、地方では老朽化した消防車のエンジンがかからず、出動できない事例が多い」(情報筋)

(参考記事:北朝鮮でマンション火災、消防出動せず住民は茫然

首都・平壌や道庁所在地を除く市や郡には、消防車が2〜3台配備されている。しかし、1960年代から70年代に旧ソ連で製造されたものだという。おそらく、徳川(トクチョン)自動車工場で製造された、GAZ-51か、それをコピーした勝利-58だろう。

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また、消防隊員も専門知識を持っておらず、鎮火の適切な方法すらわかっていないのだ。

2008年8月、恵山(ヘサン)市内の長屋で火災が発生し、9人が亡くなる大惨事となったが、消防車が出動せず被害を広げてしまった。これに対して、朝鮮労働党恵山委員会の委員長、人民委員長(市長)、安全部長(警察署長)が謝罪に追い込まれる異例の事態となった。また、安全部の消防課長と消防隊長、火元の住民が処罰を受けた。

(参考記事:北朝鮮のガス爆発事件、対応の遅れで地方トップが異例の謝罪

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両江道(リャンガンド)の情報筋は、地域で今年起きた火災を例に挙げて、消防隊のダメダメぶりを語った。

「今年の夏、町内で火事が起こり、急いで消防隊に連絡したが、消防車がすぐにやって来なかった。複数の住宅からなる『ハーモニカ住宅』(長屋)で、延焼することを恐れた近隣住民がほぼ火を消し止めたところで、ようやく消防車が現れた」

放水銃も力がなく、4階以上で起きた火事は消し止められない。町内に消防栓がないため、消火に使用する水は消防車が積んで運んでくる。底をつけば、住民がバケツリレーで消防車に給水する。

また、消防隊はガソリンが不足しており、故金日成主席や故金正恩総書記に関連する史跡地や史跡館でなければ、積極的に出動しようとしない。

さらに、消防隊員の質にも問題がある。

「消防車などの装備も問題だが、消防隊員にも問題がある。安全部所属の消防隊員は、コネを使って軍ではなく楽な安全部に配属された若者で、使命感はゼロで、何年かすると(安全部から推薦をもらって)辞めて大学に進学することばかり考えている」(情報筋)

兵役で楽をするためにやってきた若者は、消防隊を、人民の生命と財産を守る重要な任務を担った組織ではなく、単なる踏み台としか考えていないようだ。