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北朝鮮の通貨安が止まらない。

デイリーNKの調査では、北朝鮮ウォンの闇レートは、今年5月26日に1ドル(当日のレートは約157円)8920ウォンだったが、その後急速にウォン安が進み、6月9日には1万2100ウォン、同月23日には1万4200ウォン、そして9月2日には1万6500ウォン、11月10日には1万8100ウォンを記録した。

これは、現行通貨の流通が始まった2009年11月30日の貨幣改革以降で、史上最安値だ。なお、毎日新聞は中朝貿易関係者の話として、今月20日の時点で新義州で3万2000ウォンを記録したと報じた。

ただでさえ食糧難に苦しめられてきた北朝鮮国民だが、今はウォン安に伴う物価高騰にも苦しめられている。

そんな中、当局は「トンデコ」と呼ばれる闇両替商の取り締まりを強化している。ウォン安の元凶と見てのことだが、国民からは異論が相次いでいる。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

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北朝鮮最大の貿易都市、新義州(シニジュ)では先月から、トンデコの摘発、追放が相次いでいる。この1ヶ月半ほどで5人のトンデコが摘発され、家族もろとも新義州から追放された。

北朝鮮の戸籍は都市戸籍と農村戸籍に分かれているが、金儲けのチャンスが多い都会への居住は一種の特権だ。刑罰としての追放は、都市に居住する権利を奪われ、寒村に強制移住させられることを意味する。都市と農村の格差が著しく、居住の自由が認められていない北朝鮮で、農村に追放され、都市に戻ってこれないという「島流し」にも等しい刑罰は、かなり重いものと認識されている。

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「ある人は家財道具や資産をすべて持っていけたが、着の身着のままで追放された人もいる」(情報筋)

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当局は、これら闇両替商が国の外貨統制を無視し、個人的に外貨を取り引きして国の外為安定化政策を阻害したとの名目で処罰したとしている。ウォン安の責任を、彼らになすりつけているというわけだ。

それに対して、新義州市民からは異論が相次いでいる。

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「ウォン安は、トンデコたちのせいではなく、当局の措置が間違っているからだ」(市民)

最近追放されたトンデコと知人だった新義州市民は、このように述べた。

「ウォン安問題は、トンデコたちの闇両替のせいではないと思う。国が建設、建設と言って、カネを刷りまくっているため、ウォンの価値が下落したのだ」

北朝鮮は今年に入って、国営企業や機関に勤める労働者の月給を20倍以上に引き上げた。また、市場に対する締め付けを強化して、穀物や家電など多くの品目の販売を禁止した。

勤め先から払われる給料は「子どもの駄賃」程度の額しかなく、生きていくには市場で商売をして現金収入を得るしかない状況が長年続いてきた。北朝鮮は、大幅な賃上げで国民に現金収入を与え、市場ではなく国営商店で物を買うよう誘導し、過去30年でなしくずし的に進んでしまった市場経済化を強権で押し留めて、1980年代以前の計画経済体制に無理やり戻そうとしているのだ。

権利意識を持つ中間層を崩壊させ、皆が等しく貧しい「生かさず殺さず」の状態にすることで反抗の芽を摘み取り、かつての北朝鮮国民が持っていた、「党と首領(最高指導者)のおかげで食べていける」「だから党と首領と熱烈に支持する」という状態に戻したいのだろう。

(参考記事:「給料は20倍になったけれど…」急激な通貨安に動揺する北朝鮮

1700万人に達する労働人口の多くの給料が20倍になったことは、通貨供給量が大幅に増えたことを意味する。これが通貨安と物価高騰を招くことは経済学の基本中の基本だが、なし崩し的に進んだ「草の根資本主義」を体得した北朝鮮の市井の人々は、そのことをよくわかっているようだ。苦しくなる一方の暮らしに、国民は朝鮮労働党や金正恩総書記をありがたがるどころか、むしろ反感を抱くようになった。

「国が解決すべき構造的な問題に手を付けず、国民にあれするな、これするなと言い、違反者を処罰するばかりだ。自分たちに『飢えて死ね』と言っているのも同然ではないか」(情報筋)

構造的な問題の一つに、腐敗認識指数最下位を争うほどに蔓延した、ワイロがある。(2023年のランキングは世界180カ国中172位)

「ワイロで処罰をもみ消すことのできないザコばかりが追放された」(新義州市民)

闇両替商の中でも、零細な人々だけが追放され、バックに幹部が付いている大物の業者は、カネとコネの力でもみ消した。この件に限らず「有銭無罪、無銭有罪」は、北朝鮮の司法の基本だ。

取り締まりを行う安全部(警察署)と保衛部(秘密警察)は、この事件をネタにして、闇両替商から巨額のワイロを搾り取る。「取り締まりや許認可の権限は、ワイロの源泉」というのも、北朝鮮の基本だ。

当局は、「闇両替は絶対にしないように」と呼びかけ、闇両替商に対する「闘争」を続けているが、人々はむしろ「統制して処罰を強化すればするほど、外貨だけ持とうとする」(情報筋)という。

北朝鮮の人々の最大のトラウマとなった「貨幣改革」が再び行われるとの噂が国内で流れ、ドル買いと人民元買いが広まり、ウォン安に拍車をかけているとの情報も、複数のメディアが報じている。

貨幣改革とは、故金正日総書記が、市場を潰すことを目論んで、2009年11月に実施したものだ。通貨単位を100分の1にに切り下げて、旧紙幣を銀行に預けさせ、10万北朝鮮ウォン(当時のレートで約9000円)のみ新紙幣で引き出すことを認めた。当時は一般的な労働者でも、その10倍の資産を持っていたと言われているが、資産の9割を失うことになり、国中が大混乱に陥った。