このような嘆願は、個人の暮らしよりも国や社会の発展を優先し、そのためにどれほど犠牲を払えるか、どれほど忠誠心があるかを当局が試すものとして以前より行われてきた。
(参考記事:「嘆願事業」に反発し脱出を決断…脱北者ら、都内で会見)思想教育が徹底し、国全体のシステムが機能していた1980年代以前ならこのような手法も効果的だったかも知れないが、今の若者は異なる。国や社会よりも、自分の暮らしを大切にし、上からの押しつけを何よりも嫌うのが、今の世代の特徴だ。押し付けを嫌って脱北してしまう若者すらいるほどだ。
(参考記事:北朝鮮「陸の孤島」で繰り広げられる“女性確保”の不可能な作戦)コロナ前は密輸で潤い、外国文化に接する機会が多かった恵山で生まれ育った若者にとって、閉ざされて貧しい田舎での暮らしはとても耐えられるものではないだろう。また、行った先で落ち着いたとしても、結婚、出産、育児ができるほどの経済的余裕はない。
嘆願事業は既に破綻していると言っても過言ではないだろうが、これ以外に労働力不足を解消する手段がないのも実情だ。