ちなみに両江道の情報筋は、今回の演説そのものが異例のものだったと述べた。
「1号行事(金正恩氏が参加する行事)にしては、形に大きくとらわれていなかった」
実際に現場にいた人の話によると、参加者が動員された人ではなく、実際の被災者だったことを考慮してか、きれいに整列させず、自然に座らせて演説を聞かせた。もちろん、それを含めて演出、というのが情報筋の見方だ。ただ、その中には、立派な体格で顔が日に焼けていない護衛局(金正恩氏の身辺警護担当部署)の軍官(将校)が混じっていたとのことだ。
一方、壁面を開くとすぐに主席壇(最高指導者など一部の人だけが立つことを許されるステージ)がすぐにできて、カーペットを敷いた演説台とその脇に国旗が形容されている豪華専用列車を見て驚いたとも述べている。
通常、このような場合は、国旗よりも朝鮮労働党の旗が掲揚されるが、住民の信頼を失った党より、国を強調するのが最近の特徴だという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面情報筋は、今まで災害が起きても、被災者の慰問にすら訪れることがなかった金正恩氏が、なぜ急に被災者の手を取って話しかけ、演説までするのか、多くの人が怪訝に思い、悪化した世論をなだめるためにあわててやってきたようだと評した。
(参考記事:「あまりに残忍だ」男女9人公開処刑で北朝鮮に怒りの世論)金正恩氏は、コロナ禍に始めた厳しい移動統制、市場抑制策を今に至るまで続けている。そのせいで、多くの人々が市場で収入を得られなくなり、飢餓に苦しんでいる。また、食べ物目当ての犯罪も多発していると言われている。それを公開処刑などの恐怖政治で押さえつけようとしてきたが、あまり効果がなく、世論が悪化しているところに今回の大水害が起きた。金正恩氏は、失った支持を取り戻すために、今回の水害を利用し、自身がありがたい存在であるとの宣伝を行おうとしているのであろう。