北朝鮮は、全国で286店舗の「糧穀販売所」を運営している。これは様々な穀物を専門に販売する国営米屋だ。月に1〜2回、決められた量のコメ、トウモロコシなどの穀物を、市場価格より15%から25%安く販売するというものだ。
社会主義計画経済、全国的な配給システムが機能していた1980年代まで、穀物はこのような糧穀販売所でのみ入手可能な、一種の専売制度が行われており、市場での販売は禁止されていた。
しかし、1990年代に配給システムが崩壊したことで、市場での穀物販売がなし崩し的に行われるようになった。農民は穀物を軍糧米(軍向けの穀物)、首都米(平壌市民向けの配給穀物)としてではなく、より儲かる市場に卸すようになった。政府は2003年3月、このような現状を渋々受け入れ、制限付きながら販売を合法化した。
金正日政権は、元のシステムに戻そうと幾度も試みたがいずれも失敗した。金正恩政権はコロナ禍の2021年、糧政法と農場法を改正し、市場での穀物販売を再び禁じた。国民の主食を掌握することで、統制を強めようとする目論見があると見られている。また、市場経済の進展により民間に富が蓄積することも恐れているようだ。
しかし、お世辞にも運営がうまく行っているとは言えず、食糧難が深刻化している。慈江道(チャガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面慈江道人民委員会(道庁)の商業局は先月末、市場でのコメの販売を禁止した。市場管理所のイルクン(幹部)は市場をパトロールし、コメを販売していないか監視している。ただし、トウモロコシ、大豆などのコメ以外の穀物の販売は禁止されていない。
取り締まりに対して一部の商人は「なぜ急にコメの販売を禁止するのか」と食って掛かるなど小競り合いが起きているが、イルクンは「コメが不足しているから仕方がない」と返すという。
(参考記事:「食べ物をどうすればいいのか」国民の怒りにたじろぐ北朝鮮警察)道内ではコメの買い上げがうまくいっておらず、糧穀販売所で販売するコメが不足し、市場でのコメ価格も急騰している。つまり、協同農場は監視の目をかいくぐり、相変わらず市場にコメを卸しているということだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面2021年以降、市場での穀物の販売は禁じられているはずだが、徹底していないようで、現状を受けて改めて販売禁止令を下したようだ。ただ、禁止が長期に及ぶと食糧難がより深刻になる可能性があり、一時的なものにとどまると見られている。
東隣の両江道(リャンガンド)では今年1月、糧穀販売所が予告もなく臨時休業に入り、消費者は穀物が買えなくなった。その後の3月には個人の穀物販売を禁止する布告が出され、商人も消費者も困窮するなど、穀物の再専売化政策は迷走を続けている。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一方、コロナ禍で強化されていた道、市や郡の境界線を超えての移動は緩和されつつあるが、慈江道当局は先月末、移動統制を強化するという逆の政策を取り始めた。これにより地元の商人が他地域に品物の買い付けに行けなくなり、穀物以外の物価が高騰する結果を生んでいる。それに伴い、食べ物もなければ、それを買うカネもない「絶糧世帯」が急増していると情報筋は伝えた。
慈江道の市場で、豚肉1キロは2万5000北朝鮮ウォン(約450円)で販売されているが、これは他地域と比べて約1.5倍の価格だ。なお、軍需工場が数多く立地する慈江道への出入りは厳しく制限されていることから、物流が滞りがちで、食料品は勤め先での配給に頼る人の割合が他より多い傾向にある。