「勲章などいらない」国家に背を向ける北朝鮮の若者事情

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「今日は会社行きたくねー」

社会人で、そう思ったことが一度たりともない人は、いないのではないだろうか。世界中どこでも同じだろうが、北朝鮮では最近そんな若者が増えて問題となっている。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

「目覚ましい成果を収めた」としばしば国営メディアで取り上げられる恵山セメント工場では、今月に入って5人の若者が10日以上無断欠勤した。どんな背景があったのだろうか。

情報筋は、ある若者のケースを取り上げた。

2022年に女性と出会って結婚を誓ったが、生活難のため結婚式を挙げられず、同棲を続けた。そんな中の昨年11月に子どもを授かったが、生活が苦しく、妻は栄養のある食事が摂れないため、授乳ができない。若者は、少しでも生活費を稼ぐために、工場を無断欠勤して副業を行っている、というものだ。

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彼の家を訪ねた工場のイルクン(幹部)は、市の近郊にある小さな畑で野良仕事に夢中になり、なんとか生活費を稼ごうとしている彼の姿を見て、何も言えずに踵を返したという。

以前なら、あらかじめ上司と話をつけて、いくらかのワイロを渡して出勤扱いにしてもらったものだった。このような手法を「8.3ジル」というが、商売で儲けるのに忙しい人が使うもので、ギリギリの生活をしている人には厳しい。雀の涙ほどの給料を受け取り、現金収入は家族に任せるというのが一般的だった。

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一方、恵山市都市建設事業所では、今月だけで7人の若者が無断欠勤を繰り返し、うち3人には労働鍛錬刑(短期の懲役刑)の処分が下された。北朝鮮で、欠勤は刑罰を伴う犯罪行為なのだ。根拠となる法律は、以下のようなものだ。

行政処罰法第90条(無職、遊び人行為)

正当な理由なく、6カ月以上派遣された職場に出勤しなかったり、1カ月以上離脱した者は、3カ月以下の労働教養をさせる。罪状の重い場合には、3カ月以上の労働教養をさせる。

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ズル休みする自由もなければ、辞める自由もない。就職をしない自由もない。国からあてがわれた就職先に嫌でも入らなければならないのだ。多くの従業員はとりあえず出勤して無為に一日を過ごす。商売をする時間が無駄に奪われ、生活に困窮する。そんな企業に誰が勤めたいだろうか。

事業所の幹部は、無断欠勤の多い若者は法的処罰を受けると厳しく警告したものの、それでも改まらなかったため、懲役刑の処分が下された。それでも無断欠勤は減っていないという。

情報筋は、若者たちは当面の生活を最優先していることに他ならないと説明し、彼らの不満の声を伝えた。

「親の世代は飢えてでも(国や最高指導者に)忠誠を尽くしたが、自分たちの代になっても与えられたのは飢えだけだった」
「餓死寸前なのに、英雄称号をもらったところで何の役に立つのか。勲章が多くても何の意味があるのか」
「私たちは努力しなければ生きられない。職場に出勤するのは死ぬより嫌なこと。まるで拷問だ」

コロナ禍が過ぎ去った諸外国では、経済が上向きになっていることを彼らは知っている。しかし、北朝鮮では依然として生活が苦しいままで、若者たちは未来に絶望しているのだ。それは、今まで民間人の手に握られてしまっていた商品流通や貿易を、国が奪い取って管理しようとする、現在の政策がもたらした人災だ。

(参考記事:北朝鮮で「消える家族」が続出、飢えに苦しんだ果てに…

コロナ前のように、比較的自由な経済活動を認めれば、生活は向上するだろう。しかし、豊かになった中間層は、権利主張の声を上げるようになり、体制を脅かしかねない。当局は、全世界で起きたそのような流れが北朝鮮でも起きかねないと危惧しているのかもしれないが、その前に若者が不満を爆発させる可能性もあると、情報筋は指摘している。

「コロナ後も苦しんでいる若者たちは、将来に絶望している」
「この問題を法的な処罰だけで解決しようとすれば、今後、国に対する不満と反感がさらに大きくなり、深刻な状況が発生する可能性がある」

(参考記事:金正恩氏が父の大失政「貨幣改革」のマネごとをする謎