「最悪の状況だ」金正恩の経済失敗に漏れるホンネ

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金正恩総書記が進める「市場経済化抑制策」のあおりで、北朝鮮国民の暮らし向きはコロナ前より著しく悪化している。現金収入のほとんどを公設市場での商売に頼ってきたからだ。

今や市場では穀物、海産物を含めた食料品、国営企業で作られた商品、輸入品などの販売が禁止され、余剰農産物を売るに過ぎなかった1980年代以前の「チャンマダン(農民市場)」の状態に強制的に戻されてしまった。

(参考記事:「街は生気を失い、人々はゾンビのように徘徊した」…北朝鮮「大量餓死」の記憶

しかし、1990年代の未曾有の大飢饉「苦難の行軍」を生き抜いた北朝鮮の人々は、あの手この手で統制の網をかいくぐっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えたその手法は、温室野菜の栽培、販売だ。

(参考記事:金正恩氏が父の大失政「貨幣改革」のマネごとをする謎

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、自宅の庭にビニールハウスを建てて野菜を栽培するブームが起きていると伝えた。

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日本や韓国、中国では当たり前のように季節を問わずに新鮮な野菜が手に入る。しかし、ビニールハウスや温室がさほど普及していない北朝鮮では、毎年11月から翌年4月まで新鮮な野菜を目にすることはあまりない。

そこに目をつけた人々は、次々にビニールハウスを建てて野菜や果物を栽培し、旬より早く出荷する。値段が張るので一般庶民の手には届かないが、経済的に余裕のある人は、大量に買っていくという。

主に栽培されているのはイチゴとトマトだが、気候的に咸鏡北道では栽培が難しいスイカを育てて売る人もいるとのことだ。

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イチゴは5月、トマトは7月末が旬だが、ビニールハウスで栽培すれば1ヶ月ほど早く出荷できる。ちなみにイチゴとトマトは、北朝鮮では野菜に分類されている。

(参考記事:足元のカネを掘れ!…「イチゴ栽培」で儲ける北朝鮮の人々

野菜や果物以外にも、太陽節(故金日成主席の生誕記念日)があり、結婚式も多い4月に向けて献花用の花を栽培している人もいて、かなりの儲けになるようだ。

(参考記事:経済難の中でも「花」がバカ売れする北朝鮮ならではの事情

別の情報筋は、ビニールハウスブームについて、「工業製品が市場で販売できなくなったから」と説明した。

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工場で作られた食料品はもちろんのこと、服、靴、電化製品の販売も禁止され、現金収入が途絶えてしまった人が数多く存在する。農村部の小規模市場では規制がゆるいが、清津(チョンジン)などの大都市の市場では、全く販売ができなくなってしまった。

市場での販売が認められているのは、穀物を除く農産品に加え、有休資材(余った資材)で作ったまな板、包丁、ハエ取り器など、家内制手工業の製品に制限されている。

国営企業は、儲からない正規ルートでの出荷ではなく、確実に儲けのある市場への不正規ルートでの出荷を行っていた。さもなくば企業の運営資金が確保できないからだ。これをやめさせ、国営商店に卸して以前より高い価格で販売させることで、国営企業の利益を確保すると同時に、国庫に入る現金を増やすのが、北朝鮮当局の目論見のようだ。

同時に一部企業では、大幅な賃上げも行っている。引き上げられた価格で商品が買えるようにだ。

だが、そのせいで地方政府の税収の多くを占める、市場使用料(ショバ代)が入らなくなり、公共事業や年金支給などに支障が出始めている。そして上述のように、現金収入を絶たれてしまい、生活に困窮する人が急増している。

市場の統制に対する北朝鮮国民の不満は非常に大きく、当局の目を気にしながらも「今までで最悪の状況だ」との不満の声があちこちで漏れている。収入面はもちろんのこと、国家計画に従って動く国営企業は、トレンドの変化についていけず、消費者の需要に応じられないからだ。

中央司令型の計画経済を取っていた旧ソ連では、パンやバター、肉などの食料品や、消費者の間で人気の商品が大幅に不足し、需要の少ないものが大量に生産され、商店に陳列される状況となっていた。

50年以上前にその限界が露呈していた計画経済を2024年の今、復活させようというのは、商品、中でも食料品の流通における国の主導的役割を取り戻し、国民を従わせる「カロリー統治」復活の意図があるからと見られる。しかし、過去30年以上続いた市場経済化で目が肥えた北朝鮮の人々の心を取り戻すのは非常に困難と言えよう。

(参考記事:「もう奴隷は嫌だ」金正恩世襲に国民の不満が噴出