北朝鮮は27日、朝鮮戦争の休戦協定締結から70年を「戦勝節」として祝う軍事パレードを実施し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの軍事力を誇示した。しかし実際のところ、そこに参加した軍人たちは絶望のどん底にいる。
100万を超える兵員を擁する朝鮮人民軍(北朝鮮軍)だが、その大部分は農作業や建設現場に動員されており、実質的な戦力はパレードに参加する精鋭部隊など一部だとも言われる。
そんな舞台においても、幹部の中から自ら命を断つ者が相次いでいる。激務と生活苦から来る激しいストレスに耐えかねてのもので、当局は対策に乗り出した。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
平安北道(ピョンアンブクト)の軍関連情報筋によると、朝鮮人民軍総政治局は、軍官(将校)の間で起きている自殺の試みをなくすための対策に乗り出した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面第8軍団のある部隊で勤務している中隊長は今月初め、生活問題で妻と喧嘩になり、酒を飲んで酔った勢いで自殺しようとし、周りに止められるという事件を起こした。この中隊長は、過去にも酔って斧を振り回すなど問題のある人だった。中隊長は保衛小隊の勾留場に入れられ、現在取り調べを受けている。
事件の報告を受けた総政治局は、対策を立てるように指示を下し、部隊の政治部と責任幹部(上層部)に深刻な政治的な問題があったと見て追及している。自殺未遂事件が起きたのに、責任者が処罰されることを恐れて隠蔽し、1週間も経ってようやく報告したことも問題だとして、責任幹部に連帯責任を問う方針だ。
(参考記事:戦争どころではない…北朝鮮軍将校たちを苦しめる栄養失調)咸鏡北道(ハムギョンブクト)の軍関連情報筋も、第9軍団で今月初め、中隊長が生活上の問題を巡り、上官である大隊長と喧嘩し、自殺を図ったと伝えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面総政治局は、しばしば発生する自殺未遂事件と関連し、教養事業(思想教育)を強化し、政治的事故(自殺)を防げと毎日のように指示を下している。しかし、現場からは反発の声が上がっている。
そもそもの問題は、苦しくなる一方の生活にある。その改善策を提示しないまま、思想教育で解決するには限界があるというものだ。とりあえず、思想教育を行えば「やってる感」を演出することはできる。何か問題が起きた場合の予防線にはなる。
(参考記事:「思想が足りないから飢えると言うのか」食糧難の北朝鮮で国民が不満)かつては社会的に尊敬され、安定した生活が約束され、皆が羨む職業であった軍官たち。しかし、近年は生活苦に喘ぐ者が少なくない。商行為が禁止されているため、市場で商売して現金収入を得て食べ物を買うわけに行かず、配給に頼らざるを得ないのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面その配給が止まり、皆がイライラしている状況で、喧嘩が多発する。そして、カッとして自殺を図るのだろう。
なお、北朝鮮で自殺は、「自分の政治的生命を汚し、育ててくれた党と首領への恩知らずで裏切る行為」とされ、政治的事件となり、遺族にも累が及ぶことがある。自ら命を断つことすら、「自由に」できないのが、北朝鮮という国だ。
(参考記事:「この国に生まれたことを後悔」自ら命を絶つ北朝鮮の人々)