北朝鮮の金正恩総書記の権威が、深刻な挑戦を受けている。5月31日の軍事偵察衛星の打ち上げ失敗が打撃になったであろうとの分析が見られるが、それはむしろ本質的な危機ではない。
北朝鮮の国力で、ここまで核戦力を築き上げてきたのは、指導者の手腕としては評価されるべきものかもしれない。偵察衛星を持つことも、同国にとってはそもそも難しい課題だ。何回かの失敗を経て成功に至るなら、大したものだと言ってやっても良いだろう。
だが、金正恩氏の権威は、これとはまったく別のところで危機に瀕している。労働力の動員が難しくなっているのだ。
北朝鮮も日韓などと同様、少子高齢化の傾向にあり、労働職の自然減が進んでいると見られている。そのうえ、国内でも経済的に立ち遅れている農村や炭鉱地帯では、人口の流出が続いている。北朝鮮では、居住地の変更の自由がないにもかかわらずだ。
そのため都市の若者を農村や炭鉱に送り込んだり、兵役の若者を早期除隊させて配置したりしているが、いずれもうまく行かない。こうした現象が続くと、金正恩体制はいずれ「恐怖政治」の刃を振るう可能性がある。
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現在、北朝鮮で恐怖政治の最大の対象となっているのは、韓流をはじめとする外部文化の流入と拡散だ。最高刑は死刑で、「見せしめ」のための公開裁判も頻繁に行われている。
韓国デイリーNKは北朝鮮国内の情報筋から「首都であらゆる反社会主義・非社会主義現象を消し去るための闘争をさらに強く繰り広げよう」というタイトルの宣伝用映像を入手した。映像には開裁判の場面が複数、収められており、ある場面では被告9人が頭をうながれている。長髪の数人が女性なのはわかるのだが、丸刈りの人物もおり、その性別は見分けがつかない(上の写真)。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面今のところ、労働力動員から逃れた人々が、こうした場に引き出されたとの情報はない。しかし、住民が総動員される毎年の「田植え戦闘」がうまく行かなければ、その後の食糧確保に死活的な影響を及ぼす。北朝鮮当局は、あらゆる手段を講じるはずだ。
ただ、住民とて生き延びる方法を求めて移動しているだけで、好きで彷徨っているわけではない。見なくても死なない韓流視聴をとがめられるのとはワケが違う。
労働力動員の失敗を放置すれば、体制の運営は早晩、行き詰る。だからといって強権的な手法を用いれば、人々の反発は強まるだろう。どの道を行こうと、金正恩氏に良いことはなさそうだ。