「陸の孤島」に閉じ込められる北朝鮮女性たちの絶望

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北朝鮮は、国際人権規約で保障された居住・移動の自由を認めていない、世界的にも類を見ない国だ。生まれ育った地域から勝手に引っ越すことはできない。

だが、極端なゼロコロナ政策がもたらした経済難と食糧難で苦しんだ挙げ句、江戸時代の「逃散」のように、村を捨てて山ごもりしたり、より稼ぎの良い都会に移住したりしている。一方で合法的に移住する手段もある。大学進学と軍への入隊、そして結婚だ。

ところが、そうやって農村から都会に移住した女性を、当局は農村に連れ戻そうとしているという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

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平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、今月から朝鮮労働党平城(ピョンソン)市委員会と平城市安全部(警察署)が合同で、市内に住む農村出身女性に関する調査を行っている。

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調査は、先月26日から今月1日まで開かれた、朝鮮労働党中央委員会第8期第7回総会拡大会議での穀物を増産するという決定事項が発表された後に行われている。

最優先課題である穀物増産、そのための協同農場の労働力確保のために、都会に移住した農村出身の女性を強制的に連れ戻そうというのだ。

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首都・平壌郊外の平城市は都市部と農村部が併存し、後者には10カ所の協同農場がある。実際にどれほどの女性が都市部に移住したかは確認されていないが、1カ所の農場から年間10人が移住したとしても、12年間で1000人以上が農村部から抜け出した計算となる。

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安全部には、国民一人ひとりの居住地や賞罰履歴、思想動向などを詳しく記録した「文件」が存在するため、調べれば誰が農村出身かはわかるようになっている。農村出身と判明すれば、都市部で生まれ育った夫、子どもなど家族もろとも、農村に強制移住させられる。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋も、定州(チョンジュ)市で2010年以降に結婚を機に都市部に移住した農村出身の女性に対する調査が進められていると伝えた。

定州市には18カ所の協同農場があり、情報筋は正確な数はわからないものの、最大で2000人近い数になるだろうと見ている。

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女性だけが調査対象となるのは、夫の居住地に妻が移住するのが一般的であることと、「女性こそが農村に根を下ろして農村陣地を守るべき」という朝鮮労働党の考え方が根底にあるとのことだ。しかし、貧困から逃れるため、偽装結婚をしてまで都市部に移住する女性も多い。

「協同農場で働く女性たちは、職業選択の自由と居住の自由が政策的に統制されていて、代々農村に骨を埋めなければならないが、より良い生活を得ようと必死な女性は軍官(将校)や炭鉱、鉱山労働者と結婚して、都市部に移住して市場で商売をする」(情報筋)

軍官はともかく、炭鉱や鉱山の労働者は結婚相手としてはあまり好まれないが、農村から抜け出すためなら、彼らとの結婚も厭わないのだという。

当事者からは強制移住に対して不満の声が強まりつつあり、様々な抵抗を試みる人が出てくると思われる。考えられるものの一つが離婚だ。

北朝鮮では、政治犯とされた人の配偶者に、当局が離婚を勧めるケースがある。連座制で家族もろとも管理所(政治犯収容所)送りになることを避けるため、離婚することで他人扱いにしてやるという「配慮」だ。

ただ、裁判所はなかなか離婚を認めようとしない。離婚が少子化に繋がるという当局の考えからだ。また、稼ぎ手である妻を失った夫は、農村送りをさけられたとしても、たちまち生活苦に追いやられるだろう。

(参考記事:「思想教育で離婚を撲滅せよ」という北朝鮮の的はずれな政策

離婚以外にも、担当者にワイロを掴ませ、強制移住の対象から外してもらうという手法もある。

北朝鮮は「嘆願事業」「集団配置」などのやり方で、都市部の若者を農村や炭鉱に送り込んできたが、思ったように進んでいないようだ。そこで、農村出身の女性に目をつけたわけだが、これとてうまくいくかは不透明だ。

革命化の行き先、つまり流刑地として使われるほどイメージの悪い「陸の孤島」のような農村に自ら行こうとする人は、まずいないだろう。そうこうしているうちに、どんどん女性が農村から出ていく。農村への強制移住政策は、「底の抜けた甕に水を注ぐ」(焼け石に水)に過ぎない。

(参考記事:大量に送り込み大量に逃げられる北朝鮮の「集団配置」