「庶民の味方」逮捕で金正恩への怒り爆発

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北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市。市内中心部にある恵灘洞(ヘタンドン)と江岸洞(カンアンドン)の洞事務所(末端の行政機関)の事務長2人が、保衛部(秘密警察)に逮捕される事件が起きた。

住民思いで慕われていたという2人の身に、何が起こったのだろうか。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

現地の情報筋によると、恵灘洞、江岸洞事務所の事務長は、それぞれ知人に次のように漏らした。

「苦しい住民の生活を解決するには、国境と税関を完全に再開させ、中国との貿易を正常化しなければならないのに、当局は何をしているのかわからない」
「大統領(金正恩総書記のこと)も人民を救えないのに、われわれがどうやって救えるのか」

以前は合法・非合法の貿易で潤っていた恵山だが、新型コロナウイルスの国内流入を恐れた北朝鮮政府は2020年1月、国境を封鎖し、貿易を停止させる措置を取った。これにより、恵山の地域経済は大打撃を受け、ほとんどの人が食うや食わずの生活を強いられ、餓死者も続出している。

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国境再開への期待は高まっていて、たびたび「国境が開かれる」との噂が飛び交う。そんな状況でも、当局は国境を開かず、人々は飢えに苦しみ続けている。事務長はそんな庶民の苦しみを代弁した形だ。

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ところが、これがどこかから通報され、マルパンドン(言葉の反動、反政府的言動)、犯党行為の容疑で、2人のみならず家族もろとも逮捕されてしまった。

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今のところ、2人に対する処分について情報筋は言及していないが、奥地への追放、管理所(政治犯収容所)送りなどの重罰が予想されている。

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このことを知った恵山市民は怒りを爆発させている。ほとんどの人が、自分たちの生活が苦しいのは、国の国境閉鎖政策、ゼロコロナ政策にあると考えているからだ。

「(朝鮮労働)党がいくら自力更生を叫んでも、人民生活はよくならない。結局は中国との貿易、交流なしには人民生活は解決できないと言っただけなのに、正論を言ったからと末端幹部を反党分子に追い込み逮捕するのは本当に残忍なやり方だ」(情報筋)

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国や地方政府は、国境再開の噂が出回るたびに、「自力更生しろ」「貿易に頼るな」などと言うが、鉱業と林業以外の産業がない恵山では、中国への貿易に頼らなければ経済が成り立たないのだ。しかし国は、コロナ前の多くの人がてんでバラバラに貿易に携わる体制ではなく、国が貿易を司る「国家唯一貿易体制」を打ち立てようとし、恵山での貿易を認めていない。

(参考記事:中国依存度の高い現状を無視し「貿易に頼らない国づくり」を叫ぶ北朝鮮の愚策

しかし、そんな机上の空論につきあわされる住民はたまったものではない。人々の間からは不満の声が文字通り噴出している。情報筋によれば、例えば次のような非難が出ているという。

「すべての国家権力を握っている彼(金正恩氏)でも人民を救えないのに、末端の力のない地域幹部がどうやって人民を救えるのか。事務長の話のどこが間違っているのか」
「元帥様(金正恩氏)と最高指導部は、飢える人民を救うために何をやってくれているというのか」
「核とミサイル開発に没頭しているくせに、力のない末端幹部を攻め立てたところで、人民生活がよくなるのか」

今回の事件は、ただでさえ不満の多かった国のゼロコロナ政策への怒りに、火に油を注ぐ結果となった。多くの人が貿易に携わっているという現実を認め、国境を再び開くこと以外に、住民の不満を抑える方法はないだろう。