元来、北朝鮮の国境警備を担っているのは国境警備隊だが、昨年、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の特殊部隊「暴風軍団」(第11軍団)が、国境警備の増強を図るために派遣された。
国境沿いの地元当局や住民とのしがらみがないことから、より効果的に国境警備を強化できると目論んでのことと思われるが、横暴な振る舞いやトラブル多発で、極めて評判が悪かった。
(参考記事:「20代の娘にとどめの銃撃」北朝鮮国民も激怒した衝撃場面)暴風軍団は、国境沿いに建設が進められているコンクリート壁(コンクリートの柱に高圧電線を張ったもの)が完成すれば、撤収すると言われていたが、逆に増員が進められていると、デイリーNKの内部情報筋が伝えた。
軍当局は、暴風軍団の兵力を増強する案を検討し、国境警備隊の第25旅団と協議して、その必要性がある地域を検討している。候補地として挙げられたのは、警備が比較的手薄で、脱北や密輸が発生する可能性の高い、三池淵(サムジヨン)市、大紅湍(テホンダン)郡、普天(ポチョン)郡、金正淑(キムジョンスク)郡、金亨稷(キムヒョンジク)郡などだ。
25旅団は今月13日、傘下の連隊、大隊に国境地域の統制と警戒勤務の強化の指示を下す一方で、暴風軍団の追加派遣が行われると知らせている。現在、両者は合同で国境警備を行っているが、新たに派遣される暴風軍団は、国境沿いの地域に侵入する道路の統制などの任務を担うものと見られている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面情報筋は、今回の兵力増強の背景として、コロナ終息宣言があると見ている。
「政府がコロナ終息を宣言したことを受け、国境を通じての住民の離脱(脱北)が増えることを懸念しているようだ。暴風軍団の兵士を国境地域に追加派遣して、国境封鎖の手綱を厳しく締めようとする意思を改めて示したものだ」(情報筋)
これに対して、コロナ終息で密輸の再開を待ち望んでいた地域住民は、ため息を付いている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一方、両江道の東隣の咸鏡北道(ハムギョンブクト)に派遣されている暴風軍団に対して、食糧を提供せよとの指示が地元当局に下されたと現地の別の内部情報筋が伝えている。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
金正恩総書記がコロナ終息宣言を行った直後、政府はこの地域の朝鮮労働党委員会と人民委員会(市役所)に対して、「非常防疫の最前線を守る前哨兵たちの食糧問題を解決してやれ」との指示を下した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、兵士の家族の食糧問題も同時に解決し、任務に専念できるようにせよとの指示も下している。
これを受けて、朝鮮労働党咸鏡北道委員会は道内の各機関、企業所の責任イルクン(トップ)を集め、国境警備第27旅団と暴風軍団に食糧を提供する問題についての議論する緊急会議を開き、「さらに切り詰めて、予備の穀物を探し出し、国境を守る兵士に送ろう」との結論を下した。
実際、兵士に対する食糧配給は充分とは言えない。空腹に耐えかねて、食べ物欲しさに民家を襲撃したり、士気の低下で国境警備が手薄になり、そのすきを狙っての脱北、密輸が起こるなど、食糧不足が国境警備のネックとなっている。
(参考記事:金正恩も止められない「キレた兵士」の暴走に北朝鮮が戦慄)これに対しては、内部から不満が続出している。本来、軍の食糧は国が供給すべきなのに、その責任を地方に丸投げにしているからだ。情報筋は「コロナの余波で財政と食糧が枯渇し、事実上対案はない」とし、とりあえず会議を開いて、問題の解決に乗り出したフリをしているに過ぎないと嘆いた。
両江道や咸鏡北道の国境沿いの地域は、これといった産業もなく、農耕可能な土地も限られており、密輸や脱北の幇助などで地域経済が成り立っていた。それが閉ざされたことで、単なる経済的な苦境を超えて深刻な食糧難に襲われ、餓死者が続出している。そんな中での食糧提供は、事実上不可能だろう。
(参考記事:「住民は希望を失った」北朝鮮・高山地帯の深刻な食糧事情)