北朝鮮で公開処刑を主に担当し、恐怖政治の実行部隊として恐れられてきた保衛部(秘密警察)が、最近では非公開処刑にシフトしているようだ。
デイリーNKの咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、道内の会寧(フェリョン)で先月、住民4人が保衛部によって非公開処刑された。処刑された住民は、スパイ容疑や「特殊犯罪」に加担した容疑がかけられていたという。情報筋は「特殊犯罪」が何であるかについて言及していないが、国家財産の窃盗・横領や、覚せい剤の大規模な密売、新型コロナウイルス対策の防疫規定を破ったうえでの密輸などだったかもしれない。
情報筋は「市の保衛部拘禁所では今年に入り、1週間に平均1~2人が非公開処刑されている」とし、「犯罪者に対する処刑は、市保衛部予審院の指揮の下で、予審員と戒護員が2人1組になって実行している」と伝えた。
処刑対象者は一般拘禁者たちと分離され、独房で過ごしているという。これは、非公開処刑が行われている事実を徹底して秘密にするためだと情報筋は説明している。
かつて北朝鮮で公開処刑が頻繁に行われていたのは、人々を恐怖心で統制するためだ。しかし、脱北者の証言などによって、その非人道性が国際社会の知るところとなり、激しい非難を浴びた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面保衛部が非公開処刑に路線変更したのは、こうした非難をかわすためと思われる。また、非公開処刑の事実を秘密にするのは、処刑が頻繁に行われているという事実そのものを隠そうということなのだろうか。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
一方、非公開処刑に動員されている保衛部の要員の一部は、罪悪感と恐怖心にさいなまれていると情報筋は語る。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面情報筋は「清津(チョンジン)の保衛部のある要員は、自分の手で人を殺した罪悪感に夜も眠れず、食事もできず、処刑された人々が復讐に現れるかのような幻覚に苦しんでいる」と話した。
情報筋によると、保衛部の戒護員として勤務したことのある住民は、「(処刑を実行してからは)魂が抜けたようになってしまった。執行前には度数の高い酒を煽るのだが、執行後にもずっと憂鬱で、逃げ出したい衝動に駆られた」という。
情報筋は、非公開処刑がどのような方法で行われているか説明していないのだが、2020年2月、軍の物資を横領して逮捕されたある商店の女性経営者が、保衛部によって、ハンマーで撲殺される形で処刑されたという情報がある。そのような場面に立ち会っているのだとしたら、トラウマにもなるだろう。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面いずれにしても、拷問や公開処刑を担当してきた保衛部の要員までがトラウマになってしまうとは、相当に残虐なやり方に違いない。
金正恩総書記は、国際社会から人権問題で批判されることを最も嫌うが、そのような批判は実態を隠蔽したからと免れるものではない。人権状況の改善が客観的に観察されて初めて、評価は変わるのだ。残虐な非公開処刑などという「怪しさ」を抱え込んでいては、決して国際社会の見る目が変わることはないのである。