北朝鮮「陸の孤島」に飲み込まれた、ある兵士の”禁断の行為”

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世界の多くの国には「軍事郵便」というものが存在する。基地で勤務したり、戦場で戦う将兵が、家族や知人宛ての手紙を送る場合に利用する特別な郵便制度で、国によっては検閲を受けることとなっている。

ネットが発達した今では以前ほどの重要性はないものの、北朝鮮の朝鮮人民軍では、依然として重要な通信手段だ。ただ、その不便さ故に、軍事機密が漏洩する事態が頻発している。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

軍に入隊した友人の弟が、今年初めに生活除隊(不名誉除隊)させられたと述べた咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋は、その理由を次のように話した。

「健康状態が悪いため軍隊に入れなかった友人に宛てた手紙で、持っている装備の自慢をして、郵便検閲にひっかかった」

彼は2ヶ月近く、保衛部(秘密警察)で取り調べを受け、入隊後2年足らずで軍から追い出されることになった。

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現地では、こうした出来事が多発しているようだ。

咸鏡南道の新浦(シンポ)の軍関連の情報筋は、市内にある海軍の東海艦隊の各部隊で、手紙を通じた軍事機密の漏洩防止についての学習会が一斉に開かれたと伝えた。

外部に知られてはならない情報を手紙に書いて送ってしまう現象が一部で見られるとして、絶対に手紙に書いてはならないものとして、部隊の位置、任務や装備の内容、人事に関することが挙げられた。そして、規則に違反する行為は、入隊時に行った軍人の誓いに反する反逆行為だと強調された。

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ただ、公式の軍事郵便への取り締まりを強化しても、軍事機密のダダ漏れは止まらない。それは、軍事郵便の制度的な問題に起因するものだ。

軍隊から手紙を送る場合には、軍事郵便ハガキを使うことになっているが、供給が足りていないのだ。2020年1月のコロナ鎖国以降、ただでさえ深刻だったモノ不足に拍車がかかっており、軍事郵便も例外ではないのだろう。

そこで、普通の紙に手紙を書いて封筒に入れて送るのだが、いずれの場合も、相手に届くまで1〜2ヶ月もかかってしまう。その理由は説明されていないが、おそらく検閲に時間がかかるためだろう。そこで、手紙は軍官(将校)か、軍事郵便を輸送する機通手に個人的に預けて届けてもらうという。そうすると、検閲を受けることなく素早く届く。機密情報が監視をすり抜けてしまうのは言うまでもない。

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ただし、ここから機密が漏れたことが発覚すれば、軍官や機通手が処罰されかねないため、かなり親しい間柄か、ワイロのやり取りがあるだろうというのが、情報筋の説明だ。

いずれにせよ、徹底的な秘密主義で知られる北朝鮮で、実は情報がダダ漏れになっている事例は枚挙にいとまがない。

(参考記事:機密文書の国外流出を戒める文書が国外流出してしまう北朝鮮

さて、上述の生活除隊の処分を受けた若い兵士はどうなってしまったのだろう。

そもそも北朝鮮において軍事機密の漏洩は、公開処刑になっても不思議ではない行為だ。

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生活除隊の処分を受けると、朝鮮労働党への入党、大学進学への推薦など、幹部登用への道は完全に閉ざされ、村の人々からは「何らかの過ちを犯したのだろう」と白い目で見られるが、それだけでは済まなかった。

情報筋によると、個人情報をまとめた「文件」には「最も辛い炭鉱の労働者として配置(配属)される、他の企業所への異動は絶対禁止」と書き込まれ、炭鉱に送り込まれてしまったという。管理所(政治犯収容所)送りよりはまだマシだが、一生を陸の孤島で送ることになってしまったのだ。これは、社会政治的に葬られたも同然と言える。

彼の両親は、息子をなんとか炭鉱から連れ出そうと手を尽くしたものの、「文件」のせいでうまくいかなかった。活発な性格だった彼は、いつしか寡黙になり、人付き合いもあまりしなくなってしまったという。

情報筋は「年端も行かぬ軍人が、何の気もなしに自慢しようと軍事機密と関連した内容を漏らしたことで、一生抜け出せない処罰を受けるのはあまりにも酷い」と嘆いている。

(参考記事:「身も心もボロボロに」北朝鮮の兵士をもてあそぶ権力者のやりたい放題