北朝鮮「トップ女優」はなぜ処刑されたか…金正恩が葬った芸能人リスト

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脱北者出身で韓国紙・東亜日報記者のチュ・ソンハ氏が自身のYouTubeチャンネルで、北朝鮮の「109常務」が作成したとされる内部文書の中身を公開している。

109常務は、韓流ドラマなど海外から流入した「不法映像物」を取り締まる特務組織だ。北朝鮮で、こうした組織に付けられる数字は「10月9日」などの日付を意味する。その多くは、金正恩総書記の指示が下された日付だ。また「常務」とは、「タスクフォース」といったような意味である。

109常務の場合は2004年、金正日総書記の指示により、朝鮮労働党と国家安全保衛部(秘密警察)、安全部(警察)、検察およびコンピュータ技術者らが動員されて結成された。全国に傘下の「小組(ユニット)」があり、民家などを抜き打ちで検閲し、不法映像物の視聴を取り締まっている。

ところが、チュ・ソンハ氏が公開した内容によると、内部文書で列挙されている映像作品の多くは北朝鮮国内で制作されたものだ。それも、「幹は根から育つ」「紅湍(テホンダン)責任書記」「ある女学生の日記」など、北朝鮮でも評価の高かった作品の名が挙がっている。

と、ここまで見たところで気づいた。実はデイリーNKジャパンも以前、これと同じような内容文書を入手していた。「コンピュータに入力してはならない電子ファイル目録」と題された文書がそれだ。

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なので、ここではこれ以上、文書の中身には触れないが、ショッキングなのはチュ・ソンハ氏の解説だ。同氏は「リストを見れば、いかに大勢の芸能人が命を落としたかわかる」と、断定調で述べているのだ。

筆者も文書を手に取った瞬間、同じことを思った。しかし列挙された作品の膨大さに、「いくら何でもここまでは…」という疑いを抱かずにはいられなかったのだ。どれほど多いかと言えば、チュ・ソンハ氏が「これをすべて取り上げられ(禁止され)たら、北で見ることのできる映画やドラマがあるのか、と思った」と述べているほどなのだ。

ちなみに、先に挙げた3作品については、「幹は根から育つ」に主演した「喜び組」出身の元トップ女優、キム・ヘギョンをはじめ、主人公の女優らが処刑された可能性が有力視されている。キム・ヘギョンは、金正恩総書記によって処刑された叔父・張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長の愛人だったとされる。

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(参考記事:【写真】女優 キム・ヘギョン――その非業の生涯

そして、デイリーNKジャパンが入手した文書の日付は2015年5月だ。

本当に、この膨大な作品の主人公たちが全員、処刑されたかはわからないが、少なくともこの文書が、「金正恩時代になって闇に葬られた芸能人たちのリスト」と呼べることは確かだろう。