北朝鮮の金正恩総書記は大の「乗り物」好きとして知られる。
たとえば、朝鮮中央テレビは昨年8月7日、金正恩氏が水害被災地を視察した際の写真を公開。それを見ると、金正恩氏が泥で汚れたレクサス「LX570」と見られる黒のSUVの運転席側にいる。
また、父親の金正日総書記が絶対に乗ろうとしなかった飛行機をよく利用しているし、空軍の視察で戦闘機を見るのも好きだ。自ら軽飛行機の操縦かんを握った写真を公開したこともある。
金正恩氏はさらに、戦車を操縦した事実が公開されたこともある。韓国紙・東亜日報記者のチュ・ソンハ氏は最近、自身のYouTubeチャンネルで、かつて北朝鮮が国内テレビで放映したドキュメンタリーの内容に触れている。金正恩氏が父の死亡により権力を譲り受けた直後、2012年1月に放映されたもので、金正恩氏が戦車を操縦した様子が紹介されている。
また、チュ氏が同じ映像の中で紹介した北朝鮮の書籍によれば、金正恩氏がこうして戦車を操縦したのは2009年9月のことだという。父親に随行して新型車両の視察に出た際、周りが止めるのも聞かず、戦車に搭乗。試験場のコースを一回りした後、「もっとスピードを出したかったが、上に乗っている人間が心配で遠慮した」と豪語。主砲も撃ちたがったが、部下から「砲弾がない」と言われてしぶしぶ諦めたという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面(参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路)
北朝鮮国内では以前から、金正恩氏は公道を自ら運転する大型ベンツで飛ばす「走り屋」として知られており、それにまつわる恐怖のエピソードも伝わっている。戦車の視察に随行した側近たちとしてみれば、開発されたばかりの戦車で事故でも起きたら、間違いなく処刑ものだ。さぞや肝を冷やしたに違いない。
さて、ここで金正恩氏が操縦したとされている新型戦車だが、どうやら実戦配備はされていないようだ。一見、旧ソ連製のBMP-2歩兵戦闘車と似ているのだが、よく見るとかなり違う。試作だけされて放棄されたのかもしれないが、写真だけ見てもかなり弱そうだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金正日時代に配備された中距離弾道ミサイルのムスダンは、同氏の存命中には1度も発射実験が観測されていない(イランでの実験説はある)。金正恩時代に入り、2016年に相次いで発射されたものの、成功したのはようやく6回目のことだった。つまり、実戦ではほとんど無用の長物だったわけで、最後に成功したのも、それまでの失敗に基づき改良した結果だろう。
金正日時代には、こうした見てくれだけの戦力増強が行われ、貴重な資源が無駄に消耗したのではないだろうか。それに比べて金正恩氏は、様々なリスクを甘受しながら、核ミサイルの戦力化に成功している。
もしかしたら、使い物になりそうにないポンコツ戦車に試乗した体験も、最高指導者としての金正恩氏の軍事戦略に、何らかの貴重な示唆を与えたのかもしれない。