世界最悪の人権侵害国家と呼ばれる北朝鮮。それを末端で担っているのは、社会安全省(警察庁)、国家保衛省(秘密警察)などの治安機関だ。その横暴な振る舞いから、一般国民にとっては恐怖の対象であるが、そんな彼らとて、いつも枕を高くして眠れるわけではない。
恨みを買って危害を加えられる事件が、以前から相次いでいる。平安南道(ピョンアンナムド)の成川(ソンチョン)で起きた報復について、現地のデイリーNK内部情報筋が詳細を伝えている。
(参考記事:「報復殺人」で警察官70人死亡…秩序崩壊に向かう北朝鮮社会)成川郡の安全部(警察署)で、起訴前の証拠固めを行う予審課の課長を務める男性の息子が忽然と姿を消したのは今年3月のこと。その月の31日になって、2人の男女が息子を連れ去ったとの通報が入った。
当局は4月1日から4日まで、全国の安全、保衛機関に対して非常警戒令を宣言した。全国の安全部、保衛部(秘密警察)、軍の哨所(検問所)に加えて、列車の乗務員に対しても、徹底的に検問を行い、子どもを連れた不審な男女がいれば捕まえろと指示を下した。
そして数日後。3人は成川から遠く離れた、咸鏡北道(ハムギョンブクト)吉州(キルチュ)で発見、逮捕された。3人は、軍のトラックのドライバーにタバコとカネを渡し、荷台に乗っていたという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面取り調べで女性は、犯行の動機を次のように説明した。
コロナで商売がうまく行かなくなり、苦しい生活を送っていた最中、60代の母親が逮捕され、教化所(刑務所)送りになったことに恨みを抱いた。捜査を担当した予審課長に復讐すべく、恋人と二人でその息子を拉致し、国境で人身売買グループに売り飛ばし、儲けたカネで借金を返そうとしていた――。
二人がこのような手法を思いついたのは、北朝鮮でいかに人身売買が蔓延しているかを示していると言えよう。
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情報筋は、母親の罪状について触れていない。想像するに、市場の外で許可なく露店を開いたり、違法な商品を扱ったりしたなどの軽微な罪だったのではないか。安全部ではこのような容疑に対しても、過度な刑罰を与えたり、取り調べの過程で激しい拷問を行なったりすることが珍しくない。
(参考記事:北朝鮮警察の取り締まりに激しく抵抗する「イナゴ商人」たち)2人は、逮捕から1週間もしないうちに、住民が見守る中、大同江の堤防で公開銃殺された。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面市民から相当恨みを買っているであろう安全部の幹部が被害者ならば、「いい気味だ」とのリアクションがあるのだろうが、今回は子どもが被害者だったため、「今まで子どもの拉致事件は見たことも聞いたこともない。身の毛がよだつ思いだ」(情報筋)と、犯人に同情する声は聞かれないようだ。
(参考記事:「前科者から英雄が出た」反権力殺人に喝さい送る北朝鮮国民)