北朝鮮の金正恩総書記は「乗り物」好きとして知られる。メインの専用車両は大型のメルセデスベンツで、数種類が確認されている。
時には、自ら運転席にも座る。朝鮮中央テレビは昨年8月7日、金正恩氏が水害被災地を視察した際の写真を公開。それを見ると、金正恩氏が泥で汚れたレクサス「LX570」と見られる黒のSUVの運転席側にいる。
金正恩氏の父である金正日総書記も、自らベンツなどを運転していたことが知られている。若い時にはオートバイも運転していたようで、親子共に車の運転が好きなようだ。
一方、この2人の決定的に異なる部分のひとつが、飛行機だ。金正恩氏は頻繁に専用機を利用しており、飛行機好きであることをうかがわせる。しかし金正日氏は、どんなに遠くへ外遊する際にも決して飛行機を使おうとしなかった。正確に言えば、1965年に父・金日成主席のインドネシア訪問に同行した際には、いっしょに飛行機に乗っている。
それなのに、最高指導者になってから一度も飛行機を使わなかったのは何故か。韓国紙・東亜日報のチュ・ソンハ記者が自身のブログなどで明かしたところでは、1971年(あるいは翌年)に「血の海(ピパダ)歌劇団」がキューバ公演に向かう途上、乗っていた旅客機が爆発。劇団員が全滅した事件からショックを受けたためだという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面同歌劇団が演じた革命ミュージカル「血の海」は国内外で評価が高く、メンバーらは国民の間で日本の芸能人のような人気を誇っていた。
(参考記事:【写真】美人女優ピョン・ミヒャンの公開処刑で幕を閉じた「禁断の映画」摘発の内幕)
また、朝鮮労働党の宣伝扇動担当書記としてキャリアをスタートさせた金正日氏にとって、同歌劇団は自ら担当し、寵愛していたものでもあった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ちなみにチュ・ソンハ氏によれば、この事故の情報は、北朝鮮国内で噂として伝わるレベルのものではない。金正日氏の側近だった崔益奎(チェ・イクキュ)元党宣伝扇動部副部長が書き、北朝鮮国内で出版された『主体(チュチェ)芸術の嚮導性』という書籍の中で簡単にだが触れられているという。
北朝鮮においては、体制に都合が悪かったり、社会不安につながったりする恐れのある情報は徹底的に伏せられる。それにもかかわらず、飛行機爆発事故の事実が出版物の中で(簡単にせよ)触れられたのは、それだけ同歌劇団の存在感が大きなものだったからかも知れない。