金正恩氏はなぜ「泣き顔の老幹部」を銃殺したのか

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朝鮮労働党第8回大会が5日、平壌で開幕した。党規約に5年に1度の開催が定められた同大会は、党の最高指導機関に位置づけられる。

数日間にわたり行われる大会の初日、金正恩党委員長は「開会の辞」で、非常に印象深い言葉を発した。

同氏は、党が過去5年間に達成した成果は「決して少なくなかった」としながらも、「しかし、国家経済発展5カ年戦略の遂行機関が昨年までに終わったが、掲げた目標をほとんどすべての部門で大きく下回った」と述べたのである。

さらに、「我々の努力と前進を妨げ阻害する様々な挑戦は、外部にも内部にも、依然と存在する」としながら、「放置すればより大きな障害になり得る欠陥を大胆に認め、そのような弊害が繰り返されぬよう断固たる対策を立てるべき」と語ったのである。

これは、党の過去5年間を振り返った言葉であり、経済政策の失敗が自分の責任だと認めたわけではない。だが、首領(最高指導者)が党の上の絶対的な存在として君臨しているということは同国の大前提であり、党の指導力はイコール首領の指導力なのだ。前掲の金正恩氏の言葉は限定的な範囲にせよ、最高指導者の「無謬性」を破るものと言えるのだ。

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しかし筆者は、これが金正恩氏の肯定的な変化の表れだとは思わない。むしろこの程度は「当たり前のこと」に思える。それよりも頭に浮かぶのは、金正恩氏によって無残に処刑された、様々な現場の実務官僚たちのことだ。たとえば2015年5月、金正恩氏は視察したスッポン養殖工場の管理不備の責任を問い、支配人を銃殺刑にしている。そのときの様子は映像が公開されているが、そこに映っていた泣き顔の老幹部の姿がなかなか忘れられない。

(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導

金正恩氏が、今回のようなしおらしいことを言える人物ならば、どうして工場の管理不備だけを理由に処刑などできるのか。当時は若く、経験を積んだ現在は変わったのだろうか。

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筆者の目には、彼の内面に大きな変化が起きたようには見えない。理由は色々あるが、最も大きいのは乱暴すぎる新型コロナウイルス対策だ。北朝鮮では、防疫ルールに違反した人々が数多く処刑されているという。新型コロナ対策が国民の生命を守るより、体制の安定を維持することを優先して行われているのである。

金正恩氏が今回、経済政策の失敗を正直に認めたのは、もはやそうせずにはいられない状況に追い詰められたからだ。失敗を隠すより、大胆に認めた方が、体制の安定や自らの指導力を維持するうえで有利だと判断したのだろう。

次にまた違った判断を下すことがあれば、金正恩氏はためらうことなく、恐怖政治の刃を振るうだろう。