罪名は「愛情不足」…処刑された北朝鮮軍幹部に同情の声

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

近年の北朝鮮は連続して自然災害の被害を受けているが、今年は8号(バービー)、9号(メイサーク)、10月(ハイシェン)の3つの台風が上陸し、甚大な被害が発生した。

金正恩党委員長は、被災地に軍の兵力を投入し復旧に当たらせる一方で、自身も現地を訪問、その様子を国営メディアに報道させるなど、「人民愛」の宣伝に余念がない。

(参考記事:「軍の戦闘力に喜び」金正恩氏、水害復旧現場を視察

その「愛」は、人の命を奪う形でも示される。人民武力省後方総局のイルクン(幹部)4人が、現場に派遣された兵士への補給を怠ったとの理由で、処刑された。長期間の動員に対する軍内部の不満を払拭し、武力総司令官(金正恩氏)の「兵士愛」をアピールすることに目的があると思われる。

デイリーNKの朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内部情報筋が、その内幕を語った。

事は先月中旬まで遡る。金正恩氏は、兵士への補給を司る後方総局のイルクンが「抗日遊撃隊軍輸官(金日成主席が率いたとされる抗日パルチザン部隊の輸送担当者)たちのように闘争できていない」として、「朝鮮人民軍武力総司令官命令第00210号」を発し、検閲(監査)を指示した。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

それに基づき、軍保衛局(秘密警察、かつての保衛司令部)は、後方総局の糧食、被服、燃油、軍医局など主要部署に対する抜き打ちの検閲を実施。2015年以降の帳簿をチェックし、とりわけ今年の水害被害の被災地に動員された部隊への供給がきちんと行われたのか点検した。

その結果、定められた定期供給の量が守られていなかったことが判明した。燃油部は、物資不足を理由に、計画供給分の4割しか供給していなかった。そればかりか、現場に派遣された兵士の食糧、衣服、燃料、衣料品の供給には関心すら持とうとしなかったという。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

部署の責任者は「現物と在庫が不足している」「12月から行われる冬季訓練の供給物資も調達が困難だ」などと弁明したが、軍保衛局は、4つの部署の責任者を全員解任し、軍事裁判にかけ、部署の総合課長は全員、戦士(一般の兵士階級)に降格させ、咸鏡道(ハムギョンド)、江原道(カンウォンド)の被災地に下放が妥当とする内容の提議書(稟議書)を上部に提出した。

かねてから軍では、輸送過程での横流しなどで、末端の兵士に食糧がまともに届かない状況が続いている。軍官(将校)に対してすらまともな待遇がなされず、軍を辞める動きが起きていた。軍人の生活を改善するための対策を立てても、一過性のキャンペーンで終わり、窮状が続いていた。

もはや放置できないとの金正恩氏の強い意志が反映されたのだろう。上部は「求刑」以上の処分を下した。「兵士愛精神を少しも持たない無責任なイルクンは強く処罰せよ」との指示が下され、4人は室内で非公開銃殺された。

(参考記事:「もう辞めてしまいたい」北朝鮮軍将校の間で軍から離脱の動き

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

幹部を一度に失った後方総局の雰囲気は凍りついているが、一部からは「国が供給できないせいなのに、銃殺はひどすぎるのではないか」との声が上がっているという。

慢性化する幹部の不正行為に対して綱紀粛正が行われている北朝鮮では、処刑される幹部が相次いでいる。

今年2月、平安北道(ピョンアンブクト)の道保安局の幹部が、新型コロナウイルスの感染を疑われ隔離された友人に会いに行こうとして、防疫規則違反で処刑された。

(参考記事:隔離中に友達に会っても銃殺…金正恩「新型コロナ」で重大命令

また、7月には当局の経済政策を非難したとの理由で、中央党(朝鮮労働党中央委員会)の経済部の幹部ら5人が一度に処刑されている。平壌市内のレジャー施設を部隊にした売春に加担したとして、平壌市党(朝鮮労働党平壌市委員会)の幹部4人、売春斡旋者2人が公開銃殺にされた。

(参考記事:金正恩「女子大生クラブ」主要メンバー6人を公開処刑