北朝鮮の女性経営者が「ハンマーで処刑」された理由

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脱北者で、韓国紙・東亜日報の記者であるチュ・ソンハ氏は自身のブログで、最近の北朝鮮では従来のような公開処刑ではなく、非公開で秘密裏に処刑が行われるケースが増えていると指摘している。

理由は、公開処刑を見た人々に体制に対する反抗心が芽生えるのを避け、また国際社会から人権問題で非難されるのを避けるためだという。

韓国のデイリーNKも北朝鮮の内部情報筋から、そうしたケースについての情報を得ている。平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によれば、今年3月、軍に対する物資供給の担当者が、国から供給された物資を横領していたことが判明し、処罰されたという。

逮捕されたのは、安州(アンジュ)市軍人商店の物資供給所で所長を努めていた女性だ。

軍人商店とは文字通り、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の将兵やその家族だけが利用できる店で、通常の市場価格よりも安く購入が可能だ。所長はその価格差に目を付け、数年前から国から供給された物資を横領し、市場で販売して利益を得ていた。副業として始めたものだったが、徐々にその額が大きくなっていた。

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不正行為の情報を察知した安州市保安署(警察署)は、所長の一挙手一投足を監視するようになった。そして今年2月初め、所長が使っていた倉庫を捜索し、砂糖2トン、大豆5トン、コメ3トン、ガソリン180キロが入ったドラム缶2本を発見。すぐさま所長は逮捕された。

逮捕から2日後、捜査権は保衛部(秘密警察)に移された。単なる経済犯ではなく、政治犯としての扱いとなったということだ。保衛部は1ヶ月近く所長に対する取り調べと証拠固めの捜査を行い、上部に報告した。

その後に上部から下された指示は「死刑」だった。新型コロナウイルスで危機的な状況下、国内で自力更生、正面突破戦が行われている最中の横領は、反逆罪に該当するということだ。所長は、非公開で、それもハンマーで撲殺される形で処刑された。結局、裁判は行われず仕舞いだった。

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北朝鮮の司法制度では、逮捕され、取り調べ、予審(捜査終了後起訴までの追加捜査、取り調べ)を経て起訴される。ここまでで数ヶ月かかることも少なくない。その後、広場や競技場に市民を集めて裁判官が罪状をつらつらと読み上げ、死刑判決を下した上で、銃殺により処刑を行う。見せしめとすることで恐怖を与えるためだ。

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しかし、今回は非公開で処刑が行われた。韓国の北朝鮮人権情報センター(NKDB)の集計によると、非公開処刑の罪状として最も多いのが政治犯で48.6%、刑事犯は29.6%で、経済犯は3.0%に過ぎない。このことからも、今回の事案が政治犯として扱われていることがうかがえる。

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ちなみに、ハンマーでの処刑は次のように行われる。

「ほとんどの死刑囚は、手錠をかけられたままの状態で夜に山に連れて行く。そして、話しかけて油断させたすきに棍棒やハンマーで後頭部を殴って殺す。(遺体は)窪みや石垣をどけたところに埋葬する」(国家保衛省に勤務経験を持つ脱北者の証言、新東亜、2016年10月号)

非公開で行われた処刑だが、その情報は口コミを通じてあっという間に広がった。道内の卸売業者やトンジュ(金主、新興富裕層)は、とばっちりを食らうかも知れないと怯え、息を潜めている。

一部の処刑を非公開で行うようになったとしても、金正恩体制が「恐怖」に依存して権力を維持していることに変わりはない。その本質を最もよく理解しているのは北朝鮮国民であり、中途半端な「偽装」で彼らを欺けるはずもないのだ。