かつて国家の配給制度が機能していた時代、欠陥はあれども「貧しくとも生きていける、平等な社会」としての体裁を保っていた北朝鮮は、犯罪の少ない国だったとされる。
しかし、1990年代後半の未曾有の食糧危機「苦難の行軍」を境に、配給システムは実質的に崩壊。生きるために市場での商売に乗り出す人々がいる一方で、犯罪に走る者もいた。極度に悪化した治安対策として金正日総書記は「犯罪者はその場で処刑せよ」という荒っぽいやり方を指示した。
その後、一時は落ち着きを取り戻していた北朝鮮の経済が、国際社会の制裁と新型コロナウイルス対策による貿易停止で深刻なダメージを受ける中、各地で犯罪が多発しているという。
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平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によれば、「(道内の)順川(スンチョン)市当局の集計によれば、6月に市内で発生した犯罪のうち5割を、強盗や殺人などの凶悪犯罪が占めた。中でも目立つのは、兵士に偽装した者らによる犯罪だ」という。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「例えば、軍の兵士に偽装して市内の民家に侵入した男2人組は、テレビなどの家電やコメを盗み出そうとしたところを住人に見つかった。2人は抵抗する住人を絞殺して逃走した」(情報筋)
北朝鮮では以前から、兵士らの犯罪が社会問題となっていた。幹部の横流しなどのため末端兵士に食糧が行き渡らず、飢えがまん延していることが背景にある。また、民間人であれば商売をして現金を稼ぎ、食べ物を買うこともできるが、規律に縛られた兵士らはそうも行かない。
そうした問題に加え、「ニセ兵士」による犯罪が多発するようになったのは何故か。ひとつには、一般庶民の間で「飢えた兵士」に対する恐怖心が行き渡っていることで、兵士に偽装した方が、犯罪がやりやすくなっていることがあるようだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そしてもうひとつ、北朝鮮では、兵士の犯した犯罪は安全署(警察署)ではなく、警務隊(憲兵隊)が処理する。兵士にモノを盗まれたからと安全署に通報しても、権限がないために何もできない。だからといって、警務隊に押しかけていっても門前払いされるのがオチなのだ。
金正恩党委員長は軍の規律を正すために、まずは横流しなどの不正を徹底してなくすよう指示しているが、劇的な変化が起きたという話は聞こえてこない。そのうえ「ニセ兵士」による犯罪が多発しているとあれば、治安の改善は相当に困難な課題となりつつあるのかもしれない。