北朝鮮版「広域重要指定事件」がもたらす金正恩氏の身辺リスク

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北朝鮮の東海岸の糧政事業所(食糧事務所)で、夜間警備を行っていた保衛隊員が刺殺される事件が起きた。当局は捜査に乗り出したが、どういうわけか殺人事件そのものより、現場から消えたあるモノを探すのに血眼になっている。

事件が起きたのは今月中旬。北朝鮮第2の都市、咸興(ハムン)に隣接する咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸州(ハムジュ)郡の糧政事業所で、30代の人民保衛隊員、ハンさんが刺されて死んでいるのを同僚が発見した。

保衛隊とは、準軍事組織の労農赤衛軍の下にある保安部隊のことで、工場、企業所、機関ごとに存在し、普段は施設警備を行っている。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、ハンさんは事件前日の午後11時から当日の午前1時までの2時間、糧政事業所の証明玄関で歩哨に立っていたが、勤務の交代に向かった同僚により遺体が発見された。全身に12ヶ所もの刺し傷があったという。

現場には、容疑者がハンさんを刺すのに使ったと思しき凶器が残されており、敷地内のコメの倉庫の南京錠2個が壊され、建物の2階の窓には何者かがよじ登った跡が残されていた。つまり窃盗犯による犯行と思われるが、内部の犯行の可能性もある。

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北朝鮮の国営企業、機関で働く人々は、物価水準と比べて極端に少ない給料しか得られない。生きていくために、権限や立場を利用して、勤め先の生産品や備蓄品を横領、横流しして利益を得るのは日常茶飯事だ。それを防ぐのがまさに保衛隊で、横領、横流しが増加していることから増員されたと、デイリーNKの別の情報筋が昨年4月に伝えている。

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いずれにせよ、人ひとりの命が奪われた重大な事件だが、当局は殺人事件そのものより、ハンさんが持っていた自動小銃が行方不明になったことを重大視している。

当局は、銃が郡の外に持ち出されていない可能性を念頭に置き、保衛隊と労農赤衛軍に加え、周辺の軍部隊の兵士まで総動員し、銃の捜索を行っている。また、郡内の工場、企業所、協同農場、人民班に対して「挙動不審な者を見たり、銃を発見したりすれば、すぐに通報せよ」との緊急指示を下した。

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同時にこの事件は、咸鏡南道と咸州郡の保衛部(秘密警察)、平壌の国家保衛省にも報告された。日本でいうところの「警察庁広域重要指定事件」のような重要事件の扱いとなったわけだ。

管理されていない武器は、平壌に持ち込まれ、金正恩氏党委員長の安全を脅かすのに使われかねない。そのため、銃が平壌に持ち込まれたり、国外に持ち出されたりすることを是が非でも防ぎたいのだ。

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しかし、現場の遺留品を除いてこれと言った証拠が見つかっておらず、捜査は進んでいない。朝鮮労働党咸州郡委員会、保安署(警察署)、保衛部は、もし銃が郡の外に持ち出される事態となれば、幹部の責任は免れないとしているが、現地住民の間では「今の雰囲気を見ると既に持ち出されたのだろう」ともっぱらの噂だという。

国際社会の制裁、自然災害、新型コロナウイルスなどでただでさえ苦しい経済が、さらに苦しくなっている北朝鮮では、凶悪事件の頻発が伝えられている。

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