北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞と国営の朝鮮中央通信は10日、中国の習近平国家主席が金正恩党委員長に対し口頭親書を寄せたと伝えた。金正恩氏が8日付で、中国の新型コロナウイルス対策での成果を称える口頭親書を送ったことに対する返信である。
中国側の発表では、習近平氏は新型コロナウイルス対策を巡り、北朝鮮の求めに応じて可能な限り支援する用意があると伝えたが、北朝鮮メディアはこの内容には言及していない。北朝鮮は国内で感染者は発生していないと主張し続けているが、実際には感染が相当な範囲で拡散しているとする非公式情報が漏れ伝わっている。
軍のダメージ深刻
そのことは当然、中国側も把握しているはずだ。たとえば4月には、こんな出来事もあった。
中国在住の情報筋がデイリーNKに伝えたところによると、4月20日、北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)から、国境を流れる豆満江を渡り脱北しようとしていた女性が、中国の辺防部隊(国境警備隊)に銃撃された。
女性は重体に陥り、中国吉林省の延辺朝鮮族自治州の龍井市内にある病院に搬送され治療を受けたが、検査の過程で新型コロナウイルス陽性であることが判明した。病院はこの脱北者を隔離し、一般住民の病院への接近を禁止するなど対応に追われたという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面前述したとおり、北朝鮮政府は対外的には国内での発生を一切認めていないが、国内の住民講演会などでは発生を認める発言を行っている。脱北者から陽性反応が出たことは、国内での感染拡大がある程度広がっていることがうかがわれる。
特に朝鮮人民軍(北朝鮮軍)で集団感染がたびたび発生しているもようだ。過酷な環境下にある末端兵士たちが感染したら、多くの場合、軽いダメージでは済まないだろう。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面中国の地方政府は、新型コロナウイルスの感染者発生、移動経路などについて詳細な発表を行っているが、件の女性について発表された形跡はない。
延辺では3月下旬に2人の帰国者が陽性判定されているが、米国からの帰国者で、北朝鮮から入国した人の中に感染者がいたとの情報は発表されていない。
一報、中国共産党は4月下旬、宋濤対外連絡部長と北京市の人民解放軍総医院(301病院)の医療専門家チーム約50人を北朝鮮に派遣している。当時は金正恩氏の「死亡説」や「重体説」が取り沙汰されており、その関連と見る向きもあったが、同氏はその後に健在が確認された。50人という規模の大きさを見ても、新型コロナウイルス対策が派遣の目的であった可能性は高いと言えるだろう。