米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の保衛司令部が中国との国境都市・両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市で集中検閲に乗り出し、現地の住民らが恐怖に震えているという。
保衛司令部は、いわば軍内の秘密警察だ。一般社会の監視を担当する国家保衛省と並ぶ、泣く子も黙る存在である。
両江道の消息筋はRFAに対し、「主な検閲対象は、海外との違法な情報のやり取りと幹部の不正行為、個人密輸などだ。特に、内部情報の国外流出に対する検閲が厳しい」と語っている。
「検閲が行われるとの噂が広がった直後、(中国キャリアの)違法携帯電話を利用して韓国にいる脱北者と国内に残った家族をつなぎ、仕送りの授受を仲介していた複数のブローカーが深夜、軍により家族と共に車に乗せられどこかに連れていかれる出来事があった」(消息筋)
この消息筋はまた、「今回の検閲は『苦難の行軍』のときに保衛司令部が行ったものと手法と強度が似ていて、住民がいっそう緊張している」と強調している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮が未曽有の大飢饉「苦難の行軍」の最中にあった1990年代後半、同国内では粛清の嵐が吹き荒れていた。RFAの解説記事によれば、金正日総書記はこの当時、激しい不安の中にあったという。1994年に父である金日成主席が死亡すると、時を同じくして大飢饉が発生。国民の反発が自分に向かい、体制が崩壊するのではないかと恐れたというのだ。
そのため金正日氏は、国民の関心をそらせるため、保衛司令部を各地の検閲に走らせて中級幹部らの汚職を暴き、群衆の前で公開銃殺にしたのだ。ある脱北者はデイリーNKに対し、「特に両江道では、保衛司令部は道内だけで少なくとも19人を公開銃殺にしており、非公開で処刑された人々も加えたら、いったいどれほどの犠牲者が出たかもわからない。現場となった恵山では、いまも当時の恐怖が生々しく残っている」と語った。
北朝鮮の公開銃殺は、従来のやり方でも十分に残酷なのだが、保衛司令部のやり方は輪をかけてひどかった。普通は胴体を狙って9発の銃弾を撃ち込むのだが、保衛司令部はその全弾を頭部に浴びせたというのだ。
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国際社会の制裁により、国内経済が疲弊の度を増している現在の北朝鮮の状況は、「苦難の時代」と似てきているとの指摘もある。
果たして金正恩党委員長は、今回の検閲で何を狙っているのだろうか。