北朝鮮版「タワマンの悲劇」を量産する金正恩の強迫観念

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北朝鮮の首都・平壌のマンション建設現場で資材が地上に落下する事故が起き、巻き込まれた兵士2人が死亡したと、平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事故が起きたのは先月初めごろのこと。市内中心部から北東に15キロほど離れた龍城(リョンソン)区域のマンション建設現場で、クレーンが型枠、添え木、かすがい、パイプを上層階に運び上げる作業を行っていたところ、途中でロープが解けてしまった。

地上には、マンションの建設に当たっていた人民内務軍8総局の兵士2人がいたが、彼らを直撃し、2人共即死した。

このマンションは昨年から工事が始まったが、経済制裁によるものと思われる資材不足で工事が遅々として進まず、当局が完成を急ぐよう指示を出していた。

「安全措置を充分に行わず、速度戦で行っていたことで起きた(事故ではなく)事件」だと情報筋は解説した。北朝鮮では、このような事故が多発している。

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北朝鮮の首都・平壌には近年、倉田(チャンジョン)通り、未来科学者通り、黎明(リョミョン)通りといったタワーマンション団地が造成された。いずれも金正恩党委員長の肝いりのプロジェクトで、「金正恩時代」を象徴するランドマークとなっている。しかしこれらの建設工事に携わった元朝鮮人民軍兵士によれば、現場では兵士や労働者の墜落事故が頻発したという。

(参考記事:金正恩氏、日本を超えるタワーマンション建設…でもトイレ最悪で死者続出

速度戦とは、簡単に言うと突貫工事のことだ。指導者の記念日などに完成日を設定し、無理やり工事を進めて成果だけを追求する。このせいで、手抜き工事や事故が相次ぐのだ。速度戦について、元高級幹部の脱北者はデイリーNKに次のように語った。

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「速度戦は金日成の時代から続く、北朝鮮式社会主義体制の優越性を宣伝するためのプロパガンダだ。また崩壊事故が発生したとしても、金正恩時代に新たに登場した『朝鮮速度』を諦めることは簡単ではない。当局は、民心を確保し体制の安定化を図るためにも、住民のための成果を何としてでも見せなければという強迫観念に縛られている」

平壌市内では2014年、完成したばかりのマンションが崩壊して500人が犠牲になる大惨事があった。

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

また、装備や安全規則の不備も死亡事故の原因となっている。工事にあたっていた兵士たちにはヘルメットすら支給されず、本来は下にいてはならないクレーンの作業半径の中で作業を進めていたという。また監視員もおらず、現場では「怪我をしたら損」ということが強調されているという。

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「最近の建設現場は、建設のスピードを上げることだけに熱心で、安全規定などは眼中にすらない」(情報筋)

金正恩党委員長は、建設現場で速度ばかり優先し、質を無視する傾向が蔓延していることに警告を発しているが、長年の慣習はそう簡単に変わるものではない。かくして、貴重な人命が次から次へと失われていくのだ。

(参考記事:マンション崩壊で多数が下敷き…金正恩氏の「指示」もムダ