北朝鮮では当局の国民に対する人権侵害が横行しているが、それだけでなく、体制による抑圧と犯罪組織の違法行為が重なる形で人々を苦しめている現象もある。
その端的な例が、女性の人身売買だ。犯罪組織に騙され、あるいは拉致されて中国に売られていく北朝鮮女性は相当な数に上ると見られている。
夜道で襲撃
このような行為は、もちろん北朝鮮でも違法だ。犯罪行為が摘発されれば、犯人には死刑を含む厳罰が下される。それでも、こうした犯罪が根絶される気配はない。自由を求めて、あるいは家族を養うための出稼ぎ目的で密かに中国へ渡ろうとする女性が少なくないため、犯罪者たちは容易に「カモ」を見つけることができるからだ。
また、脱北者を痛めつける北朝鮮当局の姿勢は、被害を訴え出ることを女性らに躊躇させている。そのため、いったん女性を中国に売ってしまえば、犯罪が露見するリスクは低いのかもしれない。
今年5月、中国との国境に面した両江道(リャンガンド)の情報筋は米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、最近、若い女性や女子高生、大学生が被害者となる人身売買が増えつつあると伝えている。
(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
人身売買ブローカーは女性らに「中国でしばらくカネを稼げるようにしてやる」と騙して接近。中国のブローカーと結託し、売り飛ばす手口で荒稼ぎしている。ブローカーの受け取る報酬は女性1人あたり2万元(約31万9000円)から3万元(約47万8000円)。
国際社会の制裁による不況で市場からは商人の姿が消え、不動産価格が暴落している中、これほど手堅く儲けられる仕事はそうないだろう。
女子学生を夜道で襲って拉致するブローカーも現れ、娘を持つ親は一瞬たりとも緊張を解けないほどの状況だと情報筋は伝えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面(参考記事:中国奥地で売られた「少女A」の前に現れた救世主)
北朝鮮女性の人身売買を巡っては、トランプ米大統領が2018年2月、脱北者らをホワイトハウスに招いて実態を聞き取ったうえで「(自分が)なくして見せる」と語っていた。しかし同氏はその後、金正恩党委員長との信頼関係構築を優先し、北朝鮮が嫌う人権問題への言及を避けてきた。
北朝鮮女性が中国で人身売買の被害に遭うのは、中国当局が脱北者を強制送還する方針を取っていることも背景のひとつだ。強制送還されれば拷問を含む凄惨な人権侵害が待っているため、犯罪の被害に遭っても、当局に保護を求めることができないからだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面いま、非核化を巡る米朝対話は暗礁に乗り上げ、金正恩氏は再び弾道ミサイル発射などの強硬路線に戻るかのような姿勢を見せている。どうせ対話が上手く行かないのなら、トランプ氏は新たな対北圧力とするためにも、中国政府に対して脱北者の送還停止を要求してはどうだろうか。