米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は2月、北朝鮮でオルム(氷)と呼ばれる覚せい剤の値段が高騰していると伝えたう。によると、覚せい剤を買い求める人が多すぎて売り切れ状態になったためだという。
北朝鮮で覚せい剤が蔓延する背景として、違法薬物が深刻な害を及ぼすという認識が国民の間で徹底されていないことがある。2月の旧正月前後に覚せい剤の需要が高まったのも、「正月のプレゼント」として覚せい剤が贈られるからだというのだ。
売春とセットで
さらにRFAは3月、北朝鮮の「国家科学院」が、覚せい剤など違法薬物の原材料や製造機器を、密造業者に販売しているとの疑惑が持ち上がっていると報じた。
(参考記事:「男女関係に良いから」市民の8割が覚せい剤を使う北朝鮮の末期症状)国家科学院は、平壌市の恩情(ウンジョン)区域に位置する北朝鮮内閣所属のれっきとした中央行政機関だ。昨年1月には金正恩党委員長も現地指導した、格式の高い機関である。
北朝鮮はかつて、麻薬や覚せい剤を国家機関の主導で製造し、日本などに密輸していた経緯がある。しかし、各国当局の厳しい取り締まりにより、密輸は徐々に下火になった。皮肉なことに、それが北朝鮮国内で薬物が蔓延するきっかけとなる。薬物の「在庫」もあれば、製造技術も原材料もある。しかし売り先がなくなったため、自ずと国内で流通するようになったのだ。
(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
RFAの平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、「国家科学院は中間実験工場で使用される試薬を薬物の密造業者に売っている。さらに、薬物の生産に必要な設備機器も国家科学院の実験器具の工場で製造している」と述べている。
一方、デイリーNK内部情報筋によると、両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)では今年9月、中学生5〜6人がアヘンを使用しつつ通りを闊歩。彼らはラリった状態で、通りかかった兵士らに襲いかかり暴行を加えた。保安員(警察官)の出動後も、彼らは周りの物を破壊するなど乱暴狼藉を働いたとされる。
金正恩氏は違法薬物を厳しく取り締まる姿勢を見せているが、ハッキリ言って成果が上がっているようには見えない。それどころか、経済制裁下で国民の困窮が深まるにつれ、売買春とセットで覚せい剤の乱用が広がるなど、こうしたニュースは増加する様相を見せている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面日本に在住する脱北者のAさん(40代の女性)は、薬物の蔓延が北朝鮮を離れる決定的なきっかけだったという。
「隣家の10代の学生が覚せい剤中毒になって大変な騒ぎとなった。それをきっかけに薬物について独自で調べたところ、あまりにも薬物が蔓延する実情を見て、この国(北朝鮮)はもう終わりだと思い、脱北を決意した」
(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面違法薬物に対する北朝鮮社会全体の意識を変えない限り、薬物が蔓延する状況は改善しそうにない。薬物蔓延は、金正恩体制を脅かす本質的な危機につながる可能性すらある。