北朝鮮国営の朝鮮中央通信は1日、金正恩党委員長が中国との国境に面した北部の慈江道(チャガンド)にある江界(カンゲ)トラクター総合工場、江界精密機械総合工場、将子江(チャンジャガン)工作機械工場、2・8機械総合工場を視察したと伝えた。
名称だけを見れば民生品を生産しているように思えるこれらの工場だが、実際には、北朝鮮の代表的な軍需工場だ。江界市は北朝鮮随一の軍需工業地帯であり、国民の出入りも厳しく統制されている。
江界市では1991年、ミサイルや砲弾を製造していた軍需工場が大爆発を起こし、1000人規模の死者が発生したとされている。当時、北朝鮮にいた人の間では有名な話だが、海外ではあまり知られていない。爆発のあまりの凄まじさに、住民は敵国からミサイルで攻撃されたものと思ったという。
(参考記事:【目撃談】北朝鮮ミサイル工場「1000人死亡」爆発事故の阿鼻叫喚)このように江界は、北朝鮮にとって極めて重要な地域だ。軍事政策の上では、軍事境界線と並ぶ「もうひとつの最前線」と言えるかも知れない。
そのような地域を金正恩氏がこの時期に視察し、国営メディアに公開させた意味は大きいと言える。5月初めに2回にわたり短距離弾道ミサイルの発射を行ったように、米国との対話が停滞する状況下で北朝鮮は、もう一度「力の誇示」へ舵を切るかのような姿勢を見せている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また金正恩氏は、「力の誇示」を行うに際して、陣頭指揮にこだわるスタイルだ。同氏は核兵器開発でも、弾道ミサイルの試射に現場で立ち会うなど、かなりの危険を冒して陣頭指揮を取っていた。
(参考記事:【画像】「ミサイル発射映像に炎に包まれる兵士」金正恩氏、目撃しながら大喜びか)米軍は、北朝鮮がミサイル試射を繰り返していた当時、金正恩氏の専用ベンツなどの動きを偵察衛星で監視していたとされる。金正恩氏が現場に出たところを、ステルス戦闘機などで急襲されたらひとたまりもない。ちなみに「走り屋」として知られる金正恩氏は、自ら専用車両のステアリングを握ることもある。
(参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路)金正恩氏は当面、米朝対話を完全に壊してしまうような極端な行動に出ることはできないだろう。しかしだからこそ、国内随一の軍需地帯を視察して見せることで、「静かなる力の誇示」を行ったのかもしれない。