金正恩体制に暗雲…食べ物がない「絶糧世帯」が急増中

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「絶糧世帯」。前年の収穫が底をつき、食べ物がなくなった世帯を指す北朝鮮の用語だ。例年なら、5月末や6月初めにかけての「春窮期」の後に発生する現象だが、今年は4月に入ってから現れている。北朝鮮の国民生活の深刻さを表していると言えよう。

ただ、こうした状況がイコール「食糧危機」を意味しているかと言えば、この点については留保が必要だ。北朝鮮では配給制度の崩壊となし崩し的な市場経済化により、貧富の格差が拡大。その日の糧を「市場で買うための現金収入」に窮し、売春や出稼ぎ(脱北)に頼らざるを得ない貧困層が、大量に存在する。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

こうした人々が飢えるのは、必ずしも「国内に食糧がないから」とは限らないということだ。

この辺の状況は、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」のときとは明らかに異なる。

実際、国連世界食糧計画(WFP)と国連食糧農業機関(FAO)は今月に入り、北朝鮮の食糧事情がここ10年で最悪となりそうだとの報告書を発表したが、これに対しては、韓国の専門家の間にも批判的な見方がある。

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報告書が北朝鮮側の一方的な情報提供に基づいて作成されているほか、そもそもこうした分析のすべての基礎となる総人口について、北朝鮮が大幅な「水増し」をしているのではないか、との主張がかねてからあるのだ。

しかしいずれにせよ、北朝鮮の国民生活が苦しい状況にあるのは事実のようだ。北朝鮮各地のデイリーNK内部情報筋が、その惨状を伝えている。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、農作業を始める季節となったのに、食べるものがなく力が出ずに、家で横になって休んでいる人が多く、農場にやってきた人も陰で横になって休んでいる人がいると伝えた。そんな有様なので、田植えも進んでいないという。

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絶糧世帯は従来、出現してもさほど多くなく、国の管理を受けられたが、今年は事情が異なり、個人耕作地に植えるための種や苗も食べ尽くし、「トウモロコシ高利貸し」に手を出す人も多い。カネの代わりにトウモロコシを借りて、秋の収穫で返すというものだが、返済できない人も少なくない。

また従来は、食べるのを我慢してトウモロコシを畑に植え、必然的に5月末や6月初めに食べるものがなくなる現象があった。それが今年は、種を蒔く気力すらないほど飢えが広がっているということだ。

ただしこの情報筋は、「苦難の行軍のときのように餓死する人はいないだろう」として、生活は苦しくても20年前のような状況には陥っていないと説明した。あのころの記憶は北朝鮮の人々にとって恐怖そのものだ。

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道内の平原(ピョンウォン)、文徳(ムンドク)、肅川(スクチョン)などの穀倉地帯の協同農場では、田植え戦闘の動員人数が足りず、田植えが進められないのではないかとの懸念が広がっている。食べるものがなく動員に応じられない人が増えているということだ。

一方、北部山間地にあり、軍需工場密集地帯の慈江道(チャガンド)でも、 経済的な苦境が広がっている。現地の情報筋は、工場、企業所に野菜を供給する「野菜班」で絶糧世帯が多く現れたと伝え、その理由を国際社会の制裁に求めた。

「制裁のせいで今年から工場が止まり、野菜の代金を払えなくなり、工場(への供給)だけに頼ってきた人が代金を受け取れず飢えている」(情報筋)

ダメージを受けているのは野菜班だけではないと情報筋は語る。工場で働いている人々も操業停止で給料がもらえなくなり、市場からは客足が遠のいた。国からの配給など期待せず、商売で得た現金で食糧を買う人の多い他の地方と異なり、慈江道は軍需工場が多いことから国から厚遇されてきた。その分、経済危機、食糧不足への対処が遅れてしまうのだ。

「国連が制裁をするので、工場、企業所が止まり、そのせいでカネが回らなくなった。なけなしの種銭にまで手を出してしまいそうで心配だ」(慈江道の商人)