北朝鮮の金正恩党委員長は4月24日から26日まで、初めてロシアを訪問し、プーチン大統領と会談するなどした。その成り行きを、固唾を飲んで見守る人々がいた。ロシアに外貨稼ぎに出た北朝鮮の人々である。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が、現地の高麗人(朝鮮系ロシア人)の情報筋の話として伝えたところでは、労働者たちは首脳会談の場で経済協力の約束をロシアから取り付け、国家への上納金を減額してくれることに期待していたのだ。ところが、首脳会談の成果ははかばかしいものではなかった。そして国からもたらされたのは、上納金の減額どころか増額要求だった。労働者たちは一様に悲しみに暮れ、また理不尽な仕打ちへの怒りを募らせているという。
ロシアには、北朝鮮レストランの「看板娘」である美人ウェイトレスたちや、建設現場などで働く北朝鮮男性たちがいる。
===怒れる男たちの乱闘===
彼らの置かれた労働環境は過酷である。先月から今月にかけて、ウラジオストク市と西シベリアのケメロボ市内で2人の建設労働者が自ら命を絶った。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ケメロボでの一件を伝えたRFAによれば、自殺の理由は次のようなものだ。
「汗水たらして働いても貯金できず、手ぶらで帰国することとなったこの労働者は、生活苦を悲観して自殺した」
北朝鮮から海外に働きに出るには、当局の担当者にかなりの額のワイロを積まなければならない。そのためトンジュ(金主、新興富裕層)や親戚、友人から多額の借金をするケースがほとんどだ。かなりの額であっても、以前は海外に出て働けば返済は可能だった。さらに、帰国後の商売の元手も貯められるので、数年苦労すれば貧しい暮らしから脱出することもできた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ところが、この数年ですっかり風向きが悪くなってしまった。国連安全保障理事会の制裁決議2397号は、自国に滞在する北朝鮮労働者を今年末までに送り返すことを義務付けている。
かつては3年から5年の労働ビザが発給され、滞在期間中にある程度貯金ができたが、今では3ヶ月の研修ビザや観光ビザで出入国を繰り返すしかないため、カネが貯まらない。
それに加えて労働者を苦しめるのが、国が要求する多額の上納金だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「ロシアに派遣された北朝鮮労働者が自殺や脱北などの極端な選択をする理由は、(北朝鮮)当局から押し付けられた上納金の圧迫と、借金に苦しめられる生活苦だ」
一方、一部の労働者たちの間では、当局の搾取に対する怒りが高まりつつあるという。
「個人の事情を考えず、外貨稼ぎのノルマを叫ぶばかりの北朝鮮当局を見ると、現代版の奴隷を連想させる」(RFAの情報筋)
こうした怒りが鬱積したためか、ロシア国内では北朝鮮労働者とほかの外国人労働者との乱闘事件も起きている。
北朝鮮では、権力や権力者とのコネに縁遠い庶民や地方の人々は、外国にでも出て商売の元手を貯めるなどしなければ、貧困から脱出する方法がみつからないのだ。
(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち )金正恩体制の無謀な核兵器開発は、そうした数少ないチャンスまで奪ってしまった。独裁体制のやりたい放題のツケは、結局は弱い立場の人々が払わされるのだ。