北朝鮮の金正恩党委員長が旗振り役となって進めている「革命の聖地」、三池淵(サムジヨン)の開発プロジェクト。国際社会の制裁で北朝鮮経済が苦境に立たされている中でも工事が進められている。
工事は主に朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の建設部隊と、突撃隊と呼ばれる半強制の建設ボランティアの手で進められているが、現場のブラックぶりが広く知れ渡るようになり、現場に行きたがらない人や、逃げ出す人が続出している。
金正恩氏のメンツのかかった事業をサボタージュすれば、最高指導者の権威に挑戦したとみなされ、どんな目に遭わされるかわからない。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)それでも、この手の事業では過去に大量の犠牲者が出ていることもあり、「逃げるが勝ち」と考えているのかもしれない。
そんな中、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、地元の朝鮮労働党委員会が労働者を騙して現場に連れて行こうとしていたことを暴露した。事の顛末は次のようなものだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面4月22日、党金正淑(キムジョンスク)郡委員会は、庁舎の破損箇所を修理するとの名目で、郡内の工場、企業所の美装工25人を集合させ、彼らをトラックに乗せた。
出発後に彼らはそのトラックが三池淵(サムジヨン)の建設現場に向かっていることを知った。つまり、騙されたのだ。怒った美装工たちは、トラックが珉湯(ミンタン)駅そばの坂道に差し掛かったときに、「三池淵には行けない」と言って飛び降りて逃げてしまった。
「三池淵の建設現場からは、空腹を訴えて逃げる人が増えている。そんな状況をみんな知っているのに、誰があんなところに行くものか」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金正恩氏は昨年10月末、三池淵の完成を当初の2021年から、党創立75周年の2020年10月に前倒しすることを指示した。それに伴い、人員の増強を行ったが、労働環境は極めて劣悪なままだ。
別の情報筋が、三池淵で働いていた女性労働者に話を聞いたところ、仕事が終わるのは午前0時で、宿舎に戻っても3時間しか寝られないと嘆いていたという。3月末からは、工事現場の前にテントを張ってそこで寝泊まりするようになった。起床時間は午前4時だ。
タイミングを逃せば食事もできず、装備を紛失すれば寝ずに探すことを命じられる。あまりのつらさに涙を流す人も少なくない。無断で離脱すれば労働鍛錬刑2ヶ月の処分を受けるが、それの方がまだマシだとの声が上がるほどだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そんな状況が広く知れ渡ったことで、党委員長が動員をかけても誰も応じようとしない。そこで、美装工を騙して三池淵に連れて行くという苦肉の策に出たが、見事に失敗した。
党委員長は「逃げた者は党と首領(金正恩氏)への忠誠心のないやつらだ」と怒り、農場に送り込むよう命令を下した。しかし、この命令にも「給料をくれるなら行く」と行って応じていないという。また、党委員会もあまり下手なことをすると住民のさらなる反発を呼びかねないので、強く出られないものと思われる。
このような現象は、北朝鮮で広がる格差への不満の表れでもある。
「カネがある人はカネさえ払えば三池淵への動員から逃れられる。カネのない人ばかり動員されることを知っているので、建設事業そのものに対する不信感が増すばかりだ」(情報筋)