デイリーNKの内部情報筋や米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えるところによると、北朝鮮当局は、しばらく控えていた公開処刑を今年に入り再開したものと見られる。
これまでに処刑が伝えられているのは、薬物密売人や占い師など、いわゆる「非社会主義的行為」を行ったとみなされた人々だ。金正恩氏は、これらの行為に加え売買春、賭博、韓流コンテンツの流入・流布などを厳しく取り締まる姿勢を見せてきた。
(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち)それにもかかわらず、こうした行為に走るのは、金正恩氏と彼が率いる体制の権威に対する挑戦と見られているのかもしれない。北朝鮮においては、これより重い罪はない。
ただその一方で、官僚の失態や怠慢を問責しての公開処刑は、今回はまだ確認されていない。韓国に亡命した元駐英北朝鮮公使の太永浩(テ・ヨンホ)氏は近著『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)で、次のように証言している。
「金正恩は大規模な建設事業や国家的な記念事業を行う際に、最初に必ず1人か2人を処刑する。それも事業の開始段階で殺すものだから、皆、縮み上がってしまう」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面太永浩氏によれば、金正恩氏がこのようなやり方を始めたのは2012年末、錦繍山太陽宮殿を大規模改修したときからだったという。宮殿前の広場に花壇を造成するため、各機関に作業区画が割り当てられた。担当区画の土を3メートルの深さで掘り起こし、害虫駆除を行って埋め戻したのだが、国家産業美術指導部は工期を守るのが難しくなるや、1.5メートルだけ掘り起こして埋め戻した。これがバレて、局長1人が金正恩の命令により銃殺されたという。
こうした例で有名なのが、2015年のスッポン養殖工場支配人の処刑だ。同年8月、この工場を視察した金正恩氏は管理不備に激怒。支配人を銃殺させ、自分の激怒場面の動画を公開したのだ。
これを見た各部門の現場担当者たちは、さぞや肝を冷やしたことだろう。前述した花壇の件も、スッポン養殖工場の件も、担当者たちの行動の背景にはまず間違いなく、国家の経済難と、上からの無茶な指示がある。どうやっても守りようのない指示を守ったように見せるためには、何らかの「裏の手」を使うしかない。それを「インチキだ」と責められて処刑されては、生きる道が絶たれてしまう。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金正恩氏がこうした処刑を続けていた期間、北朝鮮の官僚たちは相当に委縮しただろう。実際のところ、北朝鮮のようにカネもモノも足りない環境下では、現場の責任者たちが様々な場面で機転をきかせ、あるいは英断を下すことなしに、社会は回って行かない。
ということは、彼らを委縮させる金正恩氏の恐怖政治は、どうにかこうにか回ってきた北朝鮮社会の歯車を、完全に狂わせてしまう可能性が低くないのだ。この間、北朝鮮経済の中でそのような現象が表れたかどうかを検証するのは難しいが、恐怖政治がプラスに働いたとはとうてい思えない。
金正恩氏は昨年も、経済部門の視察で一度ならずブチ切れている。それでも、担当者が処刑されたとの話は聞かない。もしかしたら彼も、何らかの反省をしたのだろうか。