金正恩氏が軍隊に「武力統一」を強調する、致命的な裏事情

北朝鮮の金正恩党委員長は16日、朝鮮人民軍航空・対空軍第1017軍部隊戦闘飛行士の飛行訓練を指導した。これに続き17日には、国防科学院が実施した新型戦術誘導兵器の試射を視察した。

金正恩氏が軍事活動の視察を行うのは、実に久しぶりのことだ。2017年には弾道ミサイルの発射実験をしょっちゅう視察していた。あの頃に比べれば、北朝鮮はずいぶん静かになったものである。

このように感じているのは、北朝鮮の兵士たちも同様だろう。米軍の軍事圧力下で弾道ミサイルの発射実験を強行する際には、相当な緊張感が伴ったはずだ。現場で重大な事故が起きた形跡も捉えられており、まさに「実戦さながら」といった雰囲気だったろう。

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それだけに、昨年からの対話ムードの中での気の緩みも大きいに違いない。実際、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によれば、軍の内部では将兵に対する思想教育が強化されているという。

この情報筋によると、道内に駐屯している国境警備総局の中隊では先月1ヶ月間、戦闘準備強化に関する集中学習が行われた。平日朝と土曜日に行われた思想学習のメインテーマは「元帥様のベトナム訪問後、軍人の間に平和に対する幻想が広がっている」というものだったという。

集中学習では、次のようなことが兵士たちに対して強調された。

「党が命令さえ下せば、いつでも敵の牙城を叩き潰せるように万端の戦闘動員体制を維持せよ」

「統一は言葉では成し遂げられない」

「武力で南の地を解放し、わが民族の願いを勝ち取ろう」

「党が敵と交渉しようが対話をしようが、人民軍は武力で祖国を統一するという一念で戦闘政治訓練を強化せよ」

軍隊ならば、どこの国においても同じようなことが強調されているはずだ。しかし北朝鮮の場合、軍の規律はすでに乱れきっており、このような思想教育で何とかなる次元を超えてしまっている。

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そのことは、金正恩氏もよくわかっているはずだ。何より、米国との非核化対話に乗り出したのは大きな賭けだった。仮に米国側の要求を飲み、核兵器を放棄するとなれば、北朝鮮の軍事力は致命的なまでに空洞化するからだ。

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ということは、金正恩氏はその賭けに負けつつあるということなのだろうか。本人はロシアを訪問するなどいまだに意気軒高なところを見せているが、前述した「元帥様のベトナム訪問後、軍人の間に平和に対する幻想が広がっている」という学習タイトルは、北朝鮮の軍事力の劣化が致命的な段階で進行していることの反証だと見ることが出来るかもしれない。

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