北朝鮮の金正恩党委員長は12日、国会に当たる最高人民会議第14期第1回会議で施政演説を行い、韓国の文在寅政権に対し、次のように厳しく注文を付けた。
「南朝鮮当局は、成り行きを見て左顧右眄(さこうべん)し、せわしく行脚して差し出がましく『仲裁者』、『促進者』のように振る舞うのではなく、民族の一員として自分の信念を持ち、堂々と自分の意見を述べて民族の利益を擁護する当事者にならなければなりません」
公開処刑を再開
金正恩氏が言わんとするのはつまり、「米国とはオレが直接話をつける。仲裁者ぶるのはいい加減にして、約束した経済協力を早く進めろ」ということだ。
年長者である文在寅大統領に対し、こうしたぶしつけな言葉まで出てくるのは、北朝鮮の状況がそれだけ苦しいからだと思われる。本欄でも伝えたとおり、北朝鮮当局はここしばらく控えていた公開処刑を再開している。以前、最も公開処刑が行われたのは、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」のときだ。崩壊する社会秩序を、恐怖をもってなんとか止めようとしたのだ。
(参考記事:「死刑囚は体が半分なくなった」北朝鮮、公開処刑の生々しい実態)現在、北朝鮮経済がどれほどの苦境にあるのか、全容を把握することは難しい。ただ、北朝鮮の食糧事情がかつてより改善していると言っても、なし崩し的な市場経済化のために、貧富の格差が猛烈な勢いで広がっている。現在も農村部などでは「苦難の行軍」の時代と同様に、女性が体を売らなければ食べていけない状況も残っているとされる。
(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
そんな中で食糧供給が滞れば、貧困層は一気に飢餓状態に陥りかねない。金正恩氏もそろそろ、そうした危うい状況に焦りを感じているのではないだろうか。
それにしても、立場がないのが文在寅氏である。本人は、金正恩氏の要求に応えようと全力を尽くしている。しかし、米国がウンと言わないのだ。11日の米韓首脳会談でもトランプ大統領は、開城工業団地や金剛山観光の再開は時期尚早であるとの認識を示した。
(参考記事:日米の「韓国パッシング」は予想どおりの展開)北朝鮮が現在置かれた状況が深刻なものであっても、金正恩氏は韓国に対する心理戦を行うことを忘れていないようだ。北朝鮮は最近、南北交流に対して露骨に消極的な態度を示している。経済協力が進まないことへの不満の表明に違いないが、南北関係でしか国内の支持率を稼げない文在寅政権にはキツイ状況だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面仮にここで、金正恩氏が「経済協力はとりあえず待とう。交流から進めよう」と言ったらどうなるか。文在寅政権は金正恩氏に頭が上がらず、いっそう「北の代弁者」と化していくのではないだろうか。