首脳会談の失敗で「ホッとひと安心」している北朝鮮のお金持ち

すでに本欄でも伝えたとおり、北朝鮮の貿易関係者の間からは、米朝首脳会談の失敗に対する落胆の声が漏れ伝わっている。その一方、北朝鮮国内には、会談の失敗に安どのため息をついている人々もいるようだ。その人々とは「トンジュ(金主)」と呼ばれる新興富裕層の一部だ。

「処刑されるかも」

北朝鮮では、社会主義計画経済と配給制度がほとんど崩壊し、なし崩し的な資本主義化が進んでいる。その主人公が、市場での商売や運送業などで資本を蓄え、あるいは権力と癒着して甘い汁を吸い、今や不動産投資や工場経営にも進出しているトンジュである。北朝鮮では今、ものすごいスピードで格差の拡大が進んでいるが、そこで「勝ち組」の座を占めているのもトンジュだ。

米朝首脳会談がうまく行って対北制裁が緩和されれば、ビジネス環境が改善し、トンジュも潤うのではないか――読者の中にはこのように考える向きもいるかもしれないが、どうやら、トンジュの国際情勢に対する感覚は相当にシビアなようだ。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋の話として伝えたところでは、新義州(シニジュ)を本拠地にして外貨を稼ぎ全国の市場を牛耳っているトンジュたちは「最高尊厳(金正恩氏)が米国の大統領に会いにベトナムまで行ったのだから、ベトナム式改革開放を朝鮮に導入する可能性が高い」と期待を見せつつも、こんな不安ものぞかせた。

「南朝鮮や米国など、国際的な投資が大規模に入ってくるのではないだろうか」(情報筋)

新義州は現在、金正恩氏がぶち上げた都市再開発プロジェクトで不動産バブルに沸いている。現地のトンジュたちはその恩恵を十二分に受け、「濡れ手に粟」で潤っているだろうが、それでも世界的に見れば、自分たちの投資など「はした金」に過ぎないことをよく認識している。世界各国の巨大企業が北朝鮮に進出すれば、オイシいところは全て奪われてしまうのではないかと心配しているのだ。

さらに別の情報筋によれば、トンジュは北朝鮮で改革開放が始まれば、国内に少なからぬ混乱や動揺が生じ、違法な手段で荒稼ぎしてきた自分たちが、命を危ぶむほどの状況に追い込まれるのではないかと心配しているというのだ。当局がゴタゴタを収拾して自分たちが生き残るために、トンジュを悪者扱いして粛清するのではないか、との懸念である。

確かに北朝鮮社会には、傍若無人に振る舞うトンジュに対する「冷たい視線」が存在するのも事実だ。

ある住民は、トンジュの不安を次のように語っている。

「金持ちは戦争を怖がっている。今は金儲けするにはいい時代だが、情勢が変われば(すべてが)変わる。体制が変われば国はトンジュから先に処刑する」(ある一般庶民)

こんな不安を抱えたトンジュたちは今頃、会談失敗の報を耳にして、胸をなでおろしているかもしれない。

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